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【質問】 勃起せずに悩んでいる

 40代半ばの男性です。いわゆる勃起(ぼっき)不全で悩んでいます。少し早い年齢と思うのですが、20代と今年、癌(がん)を患いました。30代には脳出血も患い、血圧の薬などさまざまな種類の薬を服用しています。勃起不全は、その影響もあるのでしょうか。薬や手術による治療をしたいとは思っていませんが、何かいい方法はあるのでしょうか。また、診療は泌尿器科になるのでしょうか。



【答え】 勃起障害 -専門的検査後に治療方針-

徳島赤十字病院 泌尿器科 奈路田 拓史

 勃起不全(勃起障害=ED)は「満足な性交渉をするために十分な勃起を発現できない、あるいは維持できない状態」と定義されています。EDは、機能性(そのほとんどは心因性)と器質性に分類されますが、多くの場合はこの両方が混在する混合性です。

 まず勃起発現のメカニズムについて説明します。大脳レベルで性的刺激を受けると、その信号が末梢(まっしょう)神経を通じて陰茎に伝わり、通常以上の血液が流入します。同時に流出路が遮断され、陰茎に血液が充満して勃起状態が完成します。勃起の発現と維持に関しては、陰茎局所の末梢神経終末および血管(もしくは海綿体)内皮細胞における一酸化窒素の役割が、重要であることが分かっています。

 器質性EDは、陰茎局所の末梢神経や陰茎血管および陰茎海綿体(海綿体は特殊な形をした血管と考えられる)の障害によって起こるものを指します。一方、心因性EDは神経障害や血管障害がなく、大脳レベルでの精神活動の範囲内で、日常生活や性生活における不安などが勃起に関して抑制的に作用する場合に生じると考えられています。

 器質性EDは、血管や末梢神経が障害される基礎疾患や既往症(骨盤会陰部外傷を含む)が多くの場合に存在します。陰茎局所の血管(もしくは海綿体)も末梢神経も、全身の血管、全身の末梢神経の一部分であるという考え方であり、それらが障害される疾患があったり、加齢による生理機能の低下があったりする場合は、高率にEDを合併することが知られています。虚血性心疾患、高血圧症、高脂血症、糖尿病、脳血管障害後遺症などがEDを生じやすい代表的な疾患です。

 さて、相談の男性ですが、脳出血の既往があり、現在は高血圧治療を受けているとのことなので、陰茎にも血管障害が及んでいると思われます。また脳出血の後遺症があれば神経障害の可能性もあるので、本質的には器質性EDと考えられます。

 さらに20代と40代の癌疾患の詳細は不明ですが、そのために骨盤内の手術を行っていれば勃起神経が障害されている可能性もあります。また、癌や脳出血などの疾患の不安が心因として機能性EDに寄与していることも十分考えられます。内服薬の内容は不明ですが、EDの原因になる薬剤が存在することも事実ですので、内服薬をチェックすることも必要です。

 現在は、勃起改善薬が処方可能になっています。適応を誤らなければ有効性の高い薬剤です。また、EDに対する手術治療は極めて適応が狭く、誰にでもできるというものではありません。ただ、薬・手術治療は望まれないとのことなので、それ以外の方法には陰圧式勃起補助器具があります。問題点としては、器具の操作に慣れる必要があること、パートナーの理解が不可欠であることが挙げられます。また、ほかの疾患を治療するため、抗凝固療法(血液が固まらないような薬剤を投与されているなど)を受けていたり、知覚麻痺(まひ)があったりする場合は陰茎・陰嚢(いんのう)の皮下出血や血腫(けっしゅ)形成、および亀裂などの外傷を生じることがあるので、慎重に使用しなければなりません。

 一般的にはED診療の窓口は泌尿器科になります。泌尿器科的に器質性EDが完全に否定できれば、心因性EDとして心療内科・精神科・カウンセリングなどをお勧めすることがあります。ただ、相談の男性は泌尿器科対応となると思われるので、専門医にまず相談するのがいいでしょう。

 最後になりましたが、日本ではED診療は原因によらず、保険が認められていない自由診療となっています。治療の前に専門的検査もありますが、検査も含め自己負担となります。費用面を問題にしなければ、専門的検査を行った上で治療方針を考えるのが原則と思います。

徳島新聞2005年4月24日号より転載

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