【質問】 下唇の痛みなどが治らない
69歳の女性です。下唇の痛みと、ただれが治らず、困っています。以前は塗り薬を付けていれば1カ月くらいで治っていました。病院では、唇のヘルペスと言われ、湿疹(しっしん)、皮膚のかゆみや炎症を抑える塗り薬と、副腎皮質ホルモンで、炎症やアレルギー症状を抑えていました。ビタミンB2の飲み薬を2週間服用しましたが治らず、現在は薬を替えてパラメゾン錠とノイロビタンを20日くらい飲んでいますが、改善しません。腫れは少しひいたようですが、皮のようになった感じがして、洗顔や歯磨きをすると、下唇が白くただれたような感じになります。痛みもあります。私の体に何か不足しているのでしょうか。
【答え】 口唇のただれ -病理組織の検査で診断を-
水の都脳神経外科病院 藤井 由美子(徳島市北島田町1丁目)
口唇は、外傷、かみ傷、紫外線などの物理的な刺激、リップクリーム、口紅、練り歯磨き粉、義歯や食器・楽器との接触などの化学的刺激を含む外的刺激を受けやすいため、ただれを起こしやすい部位です。また、いろいろな食材や薬物の入り口でもあり、感染症の侵入の門戸にもなります。今回の場合、これらが原因で、ただれた可能性があります。
また、一度ただれると、口唇は特殊な違和感(皮のように感じる、つっぱる、ひりひりするなど)を伴い、気になることが多く、ついつい皮をむしったり、なめたりして、なかなか治らなかったり、さらに悪化する場合もあります。このような刺激が原因であれば、夜間のみ亜鉛華軟膏(なんこう)や白色ワセリンをガーゼに多めに塗って患部に当てるようにすると、良くなることがあります。
病院でヘルペスと言われたそうですが、これは単純性疱疹(ほうしん)のことと思われます。単純性疱疹は、単純ヘルペスウイルスというウイルスの感染症です。再発性が強いことが多く、疲れたり、風邪をひいたり、海水浴のように紫外線をたくさん浴びた場合などに、小さな水膨れが集まった発疹がでます。毎回、大体同じ場所にできることが多いです。治療は、ヘルペス専用の飲み薬や塗り薬を使えば、大体2週間以内に治ります。
そのほかに、カンジダという真菌(カビ)によるただれもあります。この場合は、薄皮を採って、顕微鏡で検査すれば診断できます。皮膚科の専門医であれば、どこでも行う簡単な検査です。治療は抗真菌剤の塗り薬が有効です。
扁平苔癬(へんぺいたいせん)という病気もあります。これは薬剤(降圧剤、脳代謝促進剤、経口糖尿病剤など)や歯科金属などが原因だったり、肝臓の病気に伴う場合や、原因不明の場合があります。口唇にしか発疹がみられない場合と、口腔(こうくう)粘膜(ほっぺたの内側)に白い網目様の粘膜疹や、つめの変形、体に発疹を伴うこともあります。
診断をつけるには、病理組織検査(発疹の一部を米粒大ほど切り取って、顕微鏡で詳しく調べる方法)が必要になることが多いです。治療には副腎皮質ホルモン剤の塗り薬や飲み薬を使いますが、治るまでに時間がかかることがあります。効かない場合には、最近は免疫抑制剤の塗り薬が有効であることがあります。
扁平苔癬とよく似た症状の病気に、円板状エリテマトーデスもあります。この病気は全身性エリテマトーデス(膠原病(こうげんびょう)の一つ)と違い、ほとんどが皮膚のみに症状がでます。この場合も、病理組織検査が必要となり、治療は主に副腎皮質ホルモン剤の塗り薬を使います。
さらに固定薬疹という特殊な薬疹があります。これは同一部位に再発を繰り返し、色素沈着を残すことにより気付きます。毎日飲む薬より、たまに飲む頭痛薬や風邪薬などが原因となることがあり、本人も薬との関連に気付かないことが多いようです。
今回の場合、可能性は低いと思いますが、悪性腫瘍(しゅよう)も含めた腫瘍によるただれもあります。
食事に関しては、ビタミンB2、B6やニコチン酸、葉酸などが欠乏して起こることがありますが、偏食なく食べているなら、現代の豊かな食生活ではまず心配ありません。それらが欠乏しているようであれば、むしろ吸収不全症候群、アルコール中毒、慢性肝不全、偏食などを考えるべきで、その場合は内科などを受診した方がいいでしょう。
いずれにせよ、まずは診断をつけることです。病理組織検査は、診断をつけるのに重要な検査法で、たいていの皮膚科専門医で行っています。15分程度で終わる検査ですので、受けてみてはどうでしょうか。また診断がついても、治るのに時間がかかったり、再発する病気があります。あまり焦らず、唇を突っつきすぎないようにすることも大切だと思います。