【質問】 慢性胃炎と診断されたが
45歳の女性です。先日、人間ドックを受け、初めて慢性胃炎と診断されました。同時にピロリ菌の検査も行った結果、陽性でした。ピロリ菌がいるとがんになりやすいと聞き、心配です。今は胃が痛くなったりはしませんが、食後いつもげっぷが出ます。何か、かかわりがあるのでしょうか。なぜ、げっぷが出るのですか。また、ピロリ菌を除去した方がいいのか、その際に副作用などはないのか、教えてください。
【答え】 ピロリ菌 -胃がんの合併はまれ-
浦上内科・胃腸クリニック 浦上 慶仁(徳島市北沖洲2丁目)
ヘリコバクター・ピロリ(ピロリ菌)が発見されて20年が経過しましたが、この間にピロリ菌と胃の病気の関連が次第に明らかになってきました。
ピロリ菌の感染経路は、水を介した経口感染と考えられています。日本人は40歳以上では約80%がピロリ菌に感染していますが若い人の感染率は低く、全体では感染者が約6千万人といわれています。ピロリ菌に感染すると慢性胃炎が生じますが、症状を自覚することはほとんどありません。また、ピロリ菌が原因で胃潰瘍(かいよう)や十二指腸潰瘍になりますが、その頻度は低く約4%といわれています。
ピロリ菌と胃がんの関係ですが、最近の研究ではピロリ菌の感染者と非感染者を8年間にわたり経過観察したところ、ピロリ菌陽性の人では1年間に0.4%(10年間で4%)の割合で胃がんが発生しましたが、陰性の人には胃がんの発生を見ていません。しかし、十二指腸潰瘍の人はピロリ菌の感染率がほぼ100%ですが、胃がんの合併はきわめてまれです。
このため、ピロリ菌のみが胃がんの要因ではなく、菌の感染により生じる慢性胃炎(活動性胃炎や萎縮(いしゅく)性胃炎)を背景に個人の体質や外的環境、食事習慣(過剰な塩分やこげた魚・肉の摂取)などが加わって、胃がん発生の危険が生じると考えられています。
ピロリ菌を除菌すると活動性胃炎は組織学的に治癒しますが、萎縮性胃炎まで進展した例では改善されません。胃潰瘍や十二指腸潰瘍の人は除菌後は潰瘍の再発率が著明に低下します。現在、胃潰瘍と十二指腸潰瘍に対する除菌療法は保険診療が認められています。除菌療法は胃酸分泌抑制剤と抗生物質を1週間服用しますが、除菌成功率は90%前後で、すべての人に除菌が成功するわけではありません。これは抗生剤に対する耐性菌が出現しているためです。
除菌療法の副作用は軟便、下痢、腹部膨満、味覚異常などがあって多くは軽症ですが、まれに出血性大腸炎などの重篤な合併症も報告されています。また、除菌成功後に胃酸分泌の回復による胃びらんや胸焼けを伴う逆流性食道炎の発生が約10%に見られますが、酸分泌抑制剤の投与で軽快します。
げっぷはあいきともいわれ、胃の中にたまったガス、空気が口腔内に出てくることで起こります。げっぷの大部分は口から飲み込んだ空気です。正常者でも食事や唾液(だえき)の嚥下(えんげ)(飲み込み)に際し、ある程度の空気は飲み込まれますが、この量が非常に多く、これに起因する症状を訴える場合を空気嚥下症といいます。過食後や心窩(しんか)部の不快感、胸焼けのあるとき、また不安や緊張に際して飲み込まれた空気の一部がげっぷとして吐き出されます。一部は腸内に移送され、腸内ガスとなります。
治療は食事をゆっくりと行い、唾液の嚥下やあいき排出の習慣を少なくすること、また、炭酸飲料などガスが発生しやすい食品を避けることが大事です。