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【質問】 お尻に「おでき」ができやすい

 49歳の男性です。お尻におできができやすくて困っています。5~6年前に初めて、右側の最も出っ張った部分にできました。段々と大きくなり、痛みも激しくなって病院で手術をして切り取りました。2年前にも再度、大きいものができて切り取りました。その際、医者に「芯(しん)が残っているので、出てくる可能性がある」と言われ、その言葉通り、その後も何度かできましたが、市販の薬を塗って治まっていました。しかし、最近、左側にもできて痛くて仕方ありません。おできは、どうしてできるのでしょうか。体質の問題でしょうか。また、切らなくてもいい方法や、予防法について教えてください。



【答え】 膿皮症 -安静と抗菌薬投与で治療-

中瀬病院 院長 小島 聖(徳島市応神町古川)

 皮膚の表面に常に存在する黄色ブドウ球菌と化膿(かのう)性連鎖球菌が皮膚に侵入・増殖し、表皮、真皮、皮下組織が細菌感染症になることを膿皮症といいます。この膿皮症は〈別表〉のように分類されます。

急性表在性
感染症
付属器関連感染症
(毛嚢・汗器官感染症)
毛嚢炎
付属器関連感染症
(毛嚢・汗器官感染症)
伝染性膿かしん
(俗名・とびひ)
急性深在性
感染症
付属器関連感染症
(毛嚢・汗器官感染症)
せつ、せつ腫症、
癰(俗名・おでき)
多発性感染膿瘍
びまん性感染症丹毒
蜂窩織炎
慢性感染症
感染性粉瘤、
化膿性肝腺炎
臀部慢性膿皮症
皮膚潰瘍の
二次感染
全身性感染症
相談の男性は文面から、そのうちのせつか癰(よう)、あるいは感染性粉瘤(ふんりゅう)ではないかと推察されます。せつ、癰は急性深在性感染症の毛嚢(もうのう)などの感染症であり、感染性粉瘤は慢性感染症に分類されます。

 まず、せつ、癰について話します。昔から『はれもの、できもの所かまわず』といわれるように、せつ、癰ともに毛髪があり、外的刺激や摩擦、圧迫などの機械的刺激を受けやすく、不潔になりやすい部位によく発生します。すなわち手のひら、足の裏を除くほぼすべての皮膚に発生します。特に癰は、皮膚が厚く下層に強靱な筋膜のある部位(例えば腰部や臀部(でんぶ))によく発生し、中年以上の男性に多発します。

 また、発生しやすい素因としては、細菌に対する生体の抵抗力が減弱している場合、すなわち糖尿病、栄養不全、腎障害、肥満、コルチコステロイド投与などの全身的要因と掻痒(そうよう)性皮膚疾患の局所的要因があります。

 これらの病気は、毛嚢や皮脂腺の細菌感染による局所性化膿性皮膚感染症であり、毛嚢、皮脂腺に限局したものが毛嚢炎です。この毛嚢炎が拡大・進展し、毛嚢や皮脂腺が壊死(えし)となり、感染が周辺真皮内や皮下組織にも及ぶとせつになります。

 また癰とはいくつかの化膿した毛嚢が癒合し、周辺皮膚、皮下脂肪組織にも感染が波及し、せつが限局多発・進行した病態です。さらにせつ、癰から炎症が拡大・進行し、深在性のびまん性感染症である蜂窩織炎(ほうかしきえん)になります。

 せつ、癰の治療は局所安静と抗菌薬投与(抗生物質投与)が基本です。圧迫などの暴力的排膿は行わず、冷湿布で炎症の限局化を図り、抗生物質の全身投与とともに周囲の皮膚に抗生剤軟膏を塗ります。以上の方法でも膿瘍の形成がみられた場合、切開排膿し、壊死組織を除く必要があります。

 予防法としては、クロルヘキシジン含有せっけんやヘキサクロロフェン含有消毒薬(ファイゾヘックス)などを使ってシャワーや局所洗浄を日常的に行います。少しでも赤くなったり、はれたり、痛くなったりと炎症が見られれば、抗生物質の内服と抗生剤軟膏を塗るようにしてください。

 次に感染性粉瘤について説明します。粉瘤とは、皮脂腺管が閉じたために生じた貯留嚢胞で、嚢胞の中身は灰褐色で特有な腐敗臭のある泥粥(かゆ)状物質です。皮脂腺の発育が盛んな成人男子に多く、頭、顔面、首、背中などに発生します。この粉瘤自体は自覚症状は全くありませんが、皮脂腺排泄口からの細菌侵入によってしばしば感染を起こし、化膿することが少なくありません。これが感染性粉瘤です。

 感染性粉瘤は皮膚軟部組織感染症として、外科外来の症例の約2割を占めています。感染性粉瘤で炎症がひどいものや、すでにつぶれたものは切開排膿を行います。すなわち、粉瘤は自覚症状がない感染していない時期に摘出することが望ましいといえます。また、粉瘤は良性腫瘍(しゅよう)の一種であり、予防法はありません。

徳島新聞2002年12月22日号より転載

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