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【質問】 全身が痙攣して息苦しい

 74歳の女性です。3カ月ぐらい前、少し体調が悪いと思いながら、風呂に入りました。出るとすごく疲れていて、そのうち全身に痙攣(けいれん)が走りました。呼吸が苦しくなって、救急車で病院まで急行しました。痙攣が続き、苦しい状態でしたが、朝には痙攣が止まっていました。病院の先生には「内科的には悪いところはない」と言われましたが、翌朝起きたときには下半身が重くて歩けませんでした。無理して歩いても疲れるばかりで、炊事するのも苦痛です。整形外科や接骨院も数カ所行ってみましたが、何の効果もありません。どのようにしたらいいのでしょうか。



【答え】 パニック障害 -薬物療法で脳を休ませて-

山口メンタルクリニック 山口 浩資(徳島市寺島本町東3丁目

 パニック障害と呼ばれている症状のようですが、一言で乱暴に言ってしまえば「脳の過労状態」です。ただし、脳が壊れているわけではありません。疲れているだけですから休ませてやれば必ず回復します。

 ところが、この休ませてやるというのが結構大変ですね。気分転換に旅行をしたり、温泉などへ行ってみたりと、皆さんいろいろと工夫しているようですが、効果はいまひとつといったところでしょうか。やはり、安定剤や抗うつ剤、睡眠導入剤などを使用する薬物療法が最も効果的です。薬物療法により、まさしく脳を休めることに成功するわけですね。

 それにしても、脳の疲れから全身痙攣が起きたり、息苦しくなるなどの症状が出るというのも不思議な話ですね。おまけにその翌日には歩けないほど下半身が重くなるとなれば、「自分は癌(がん)か何か重大な病気で死ぬかもしれない」と考えても当然だと思います。脳が疲れたくらいで何でそんなになるんだと納得できないかもしれませんが、ここは一つ、脳の立場で考えてみましょう。

 脳は働き者です。毎日毎日、眼球を動かし、口を動かし、手足を動かし、内臓を動かしています。顔の表情を作ったり、体温調節をしたり、笑ったり、怒ったり、すべて脳がやっている仕事です。睡眠中だってそうです。夢を見るというのは脳が活動しているわけで、脳にしてみれば決して完全休養とは言えません。こんな働き者の脳が、たまに休ませてくれと言ったからと誰が責めることができるでしょう。

 でも、こんなふうに考えれば、多種多様の症状が次々と表れ、しかも変化していくパニック障害が分かりやすくなります。ある時は不安感が強かったり、抑うつ的になったり、不眠だったり、食欲低下かと思えば逆に過食だったり、歩けなくなったり、胃腸の調子が悪かったりと、パニック障害なのに決してパニックだけじゃない。

 そうです。脳がすべてのことを当たり前のようにやってくれていたからこそ、その脳が過労状態になればあらゆる症状が出てくるのです。

 最後にお願いがあります。パニック障害や不安神経症が疑われる場合は救急車を呼ぶのは遠慮していただきたいのです。1回目は仕方がないと思います。死ぬかもしれないと思うくらい辛いのですから。しかし、2回、3回と繰り返してはいけません。

 脳が壊れているわけではなく、決して死ぬような病気ではありません。本当に救急車が必要な方に譲ってあげるつもりで辛抱しましょう。ある意味自分に厳しくしていく、そうすることで脳の治療をきちんと進めていく気持ちもできてくるのだと思います。

徳島新聞2002年11月10日号より転載

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