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【質問】 がん治療で味覚なく苦み残る

 54歳の娘のことで相談です。乳がんと診断され、約1年7カ月前に手術を受けました。現在は週1回の抗がん剤、週5回のコバルト治療を受けていますが、10日ほど前から食べ物の味覚がなく、口の中はアロエをかんだような苦味が残るだけといいます。このような場合の原因と対処法について教えてください。



【答え】 口腔粘膜異常 -清潔、湿潤を保つケア基本-

徳島市民病院 外科 露口 勝

 乳がんの治療には、手術療法、内分泌療法(ホルモン療法)、化学療法(抗がん剤治療)、放射線療法があります。特に進行した乳がんや再発したものには、これらを組み合わせた治療が行われます。

 質問の女性は、進行乳がんで2年半ほど前に手術療法を受け、最近、再発が明らかになったのでしょうか?

 抗がん剤とコバルト治療を受けられているようですね。文面からはどこに、どのような再発があるのか良く分かりませんが、コバルトによる放射線治療が行われているので、手術の部位(局所)、近くのリンパ節、それとも肺、骨、脳など遠隔部のいずれかに再発があると考えられます。

 この再発病巣に対して、全身療法としての化学療法と局所療法である放射線治療を併用して受け、恐らくはその副作用と考えられる口腔粘膜の異常、味覚障害などを来したものと思われます。

 口腔粘膜は滑らかで潤っていて、身体の保護、食物の消化吸収、会話機能など重要な役割を果たしています。粘膜の再生は通常7~14日と短い期間で繰り返しているため、生体の中では骨髄、毛根、腸管上皮と並んで、細胞分裂を阻害する化学療法剤や放射線による傷害を受けやすい部位です。そのために化学療法や放射線療法によって口内炎、白血球減少、脱毛、下痢などの副作用がみられます。

 口内炎を中心とする口腔粘膜の異常は、がん化学療法を受けた人の約40%にみられる高頻度の副作用です。放射線治療でも顔面、頚部(けいぶ)が照射範囲に入るとよく起こります。口腔乾燥、潰瘍(かいよう)、疼痛(とうつう)、感染、出血、味覚異常などがあり、悪化すれば疼痛による苦痛、食物摂取の障害、会話機能および闘病意欲の低下を来し、重大な問題になります。

 口内炎が発生する仕組みは、化学療法剤や放射線が再生増殖の激しい口腔粘膜細胞を直接壊し、強度の炎症、感染を引き起こして、粘膜上皮の再生を妨害するというものです。

 口内炎を引き起こしやすい薬剤としては、乳がん治療によく使われる代謝拮抗(きっこう)剤のメソトレキセートや5-フルオロウラシル(5-FU)、ビンデシン(フィルデシン)などがあります。口内炎の発現時期は、薬剤投与後2~14日と比較的早期ですが、その程度や持続期間は、抗がん剤の種類、量、使用頻度、併用する薬剤や個人差が大きいといえます。一方、放射線治療では、照射期間、照射線量に比例して発現します。

 口内炎の予防、治療については、残念ながら現時点では確立されたものはありません。しかし、口腔内の清潔と湿潤を保つ口腔ケアが予防の基本なので、柔らかい歯ブラシによる口腔内のブラッシング(毎食後に1日3回)、10%オキシドール水や2%重曹水によるうがいが大切です。

 口腔内を適度に湿潤させるために人工唾液(だえき)(サリベート)の噴霧、熱処理済み白ゴマ油の塗布などもあります。アロプリノール(ザイロリック)や、メシル酸カモスタット(フォイパン)によるうがい(これらは保険適用外)も有効なようです。

 口内炎が重篤になれば化学療法や放射線療法を中止せざるを得なくなりますが、がん治療を十分に行えないとせっかくの治療効果が得られなくなるので、治療の継続、中断、薬剤変更などについては主治医とよく相談してください。

徳島新聞2002年9月22日号より転載

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