【質問】 がん検診の結果に不安
53歳の男性です。43歳の時から、胃がん検診を受けています。昨年、今年は「慢性胃炎」「びらん性胃炎」と診断されました。これまでには二度、内視鏡(胃カメラ)の検査を受けたこともあります。現在、食欲があって胃にも異常がないことから、医師にはかかっていません。検診で「異常なし」の結果に戻すには、治療が必要でしょうか。2つの病気や胃がん検診について教えてください。
【答え】 慢性胃炎・びらん性胃炎 -ピロリ菌の除菌療法も-
健康保険鳴門病院 増田 和彦
以前から、慢性胃炎という病名は、胃潰瘍(かいよう)やポリープなど、はっきりとした病気でなくて胃に関連した症状がある場合に使われてきました。
最近は、内視鏡診断や、採取した胃組織の顕微鏡診断によって、慢性胃炎の診断は正確になっています。
慢性胃炎は約70%の人にあり、その多くは胃粘膜が薄くなる萎縮(いしゅく)性胃炎です。内視鏡では、薄くなった胃粘膜を通して、その下の血管が観察できることで診断されます。その主な原因は、最近話題となっているヘリコバクター・ピロリ(ピロリ菌)の感染と考えられています。
びらん性胃炎は、「びらん」という潰瘍よりも浅い粘膜組織の欠損がある慢性胃炎のことで、内視鏡検査で陥凹(かんおう)(くぼみ)を認めたときに診断されます。少し赤く、浅い陥凹のある隆起が胃の出口に近い部分に多発し、時に出血を伴うこともあります。
慢性胃炎の症状は上腹部の痛みやもたれ感などで、びらん性胃炎で出血を伴っている場合などに強くなって治療が必要ですが、粘膜の萎縮だけでは症状はあまり見られず、治療は行われません。現在、症状がないとのことですので受診の必要はないでしょう。
検診で「異常なし」の結果を得るために、慢性胃炎を治したいと強く希望する場合、ピロリ菌感染による慢性胃炎であれば、菌を殺してしまう除菌療法が考えられます。
除菌療法は、既に胃・十二指腸潰瘍の再発防止のために行われており、除菌に成功する割合は約80%です。しかし、慢性胃炎の除菌療法の有効性については、学会でまだ検討中であり、保険診療でもまだ承認されていません。
除菌療法に伴う副作用は、重篤なものはまれですが、下痢、軟便、味覚異常などが約30%に認められます。除菌に成功しても、約10%に胃液の逆流による逆流性食道炎が起こります。
ピロリ菌は、日本人の約50%の約6000万人に感染しており、40歳以上では感染者は約70%にも達します。感染者のうち、胃・十二指腸潰瘍を起こすのは2~3%と少なく、胃がんにまで至るのは0.4%とさらに少なくなります。
胃がんの検診は、がんが手遅れになってから見つかるという悲劇を防ぐために行っているものです。
胃がん検診で精密検査が必要との結果が出た場合には、翌年の検診で「異常なし」の結果を得るために努力するよりも、ためらわずに内視鏡検査を受け、次回の検診までの安心を得るのがよいと思います。また、検診を受けるたびに精密検査を必要とするとの判定が繰り返される場合には、初めから内視鏡検査を受けることを勧めます。