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【質問】 腸が動くと鈍痛が

 直腸脱について相談します。妊娠中、痔(じ)の手術をしましたが完治せず、産後1年過ぎて再び手術をしました。痔は治ったようですが、直腸が排便時に出てしまい、再手術の1カ月後、腸を縫い縮めるという手術をしました。30年は大丈夫といわれたにもかかわらず、3カ月ほどで元に戻ってしまいました。排便の時以外は支障もなく、第二子出産時も問題はありませんでした。ただ、排便後は手で押し戻さなければならず、時々粘液が出ます。また腸が動くと鈍痛があり、おなかが張ったりして不快です。加齢により、何か支障が出てくるのでしょうか。先天的に肛(こう)門筋が弱いといわれたのですが、三度も手術して治らず、暗たんたる気持ちです。治る方法があれば教えてください。



【答え】 直腸脱 -手術は多様 医師と相談を-

三木達医院 院長 三木 達(徳島庄町5丁目)

 質問に書かれている経過から考えて、完全直腸脱と肛門括約筋不全症と思われます。

 直腸脱とは、文字通り、直腸が垂れ下がってしりの穴から体外へ脱出する状態で、排便のいきみとともに、赤いちょうちんのような直腸が盛り上がって見えますから、診断は容易です。大きさは、大人のこぶし大からヘチマ状にぶら下がるものまで大小さまざまです。出血と分泌液が多く、不快です。肛門括約筋不全症は、肛門という長さ5センチのパイプを締め付ける4本の輪ゴム状の筋肉が緩んでしまって、肛門が開いたままになる状態を言います。

 この2つの疾患は、一緒に発病することもあるし、別々に発病することもあります。最近の高齢化社会とともに急に増えてきた疾患ですが、すべての肛門・直腸病の0.2%くらいといわれています。


 女性で、中でも出産経験のない人や子宮摘出者に多いといわれています。原因に定説はなく、第一は便通異常、第二に肛門・直腸を取り巻いている筋肉の筋力低下、第三に直腸の形の異常、第四に神経まひなどが考えられています。症状は、排便とともに直腸が肛門外へ脱出して垂れ下がり、ふん便失禁、出血、粘液の排出を合併します。病状の進行とともに、せきやくしゃみでも脱出し、下着が汚れたり、残便感が強く残るようになります。社会生活は制限され、性格は内向的となり、人格の崩壊まで現れるようになります。

 治療は、軽度のものには、肛門管から施す「直腸粘膜縫縮術」とナイロンのひもなどによる「肛門の締め付け手術」が有効ですが、治癒率は70%くらいです。多分、この質問者は、この両方の手術を受けたものと思われます。約30%の人には、2~3年以内の再発があります。

 一方、大人のこぶし大以上に脱出する重症の直腸脱には、全身麻酔で開腹して、緩んだ筋肉やすじを縫い締める「直腸固定術」や「骨盤底形成術」を行います。十数種の手術法があり、逆にいえば、決定的な治癒手術はいまだ確立されていないということです。熟練した技術と経験を必要とする手術です。それでも、再発率は10%程度あり、治療期間は入院を含めて2~3カ月と思われます。

 術後の合併症には、腸閉そく、インポテンツ、排便機能異常(特に下痢の時の失禁)などが少なくなく、安易な考えでの手術は禁物です。慎重に納得がいくまで専門医と相談し、十分な決意と勇気を持って治療を受けることが大切です。

 肛門括約筋不全症の手術も最近は進んでおり、大殿筋といった肛門の周囲の大きな筋肉を移植する方法もあり、10年前とは違った世界が開けています。なお、開復術による根治手術は、専門病院への入院が必要です。

徳島新聞1999年5月9日号より転載

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