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【質問】睾丸が陰嚢に降りていない

 【質問】 1歳になる男の子の母親です。息子が健診で「停留精巣」と言われました。触ってみると右側にしか、ころっとした感じがなく、左側にはありません。生後、自然に降りてくるはずの睾丸が、腹腔内か、陰(いん)嚢(のう)に降りてくるまでの途中に残っているそうです。しばらく様子を見ていましたが、近く手術することになりました。初めての男の子なので心配です。手術をすれば無事に治るのでしょうか。

 徳島大学病院泌尿器科 高橋正幸副科長

 【答え】適切な時期に手術必要

 【答え】 精巣は、腹腔内で発生し、通常、生まれる前には陰嚢内に下降しています。陰嚢内まで下降していない精巣を停留精巣と言います。その頻度は、1歳で1.0~1.7%とされています。

 陰嚢内は体温より1~2度低く保たれています。停留精巣の場合、精巣は陰嚢より上の下腹部にあるため、陰嚢内にある精巣に比べて、温度が高い環境にあります。精巣はこの高い温度環境に弱く、そのまま精巣が下腹部にある状態が続けば、将来の精子形成に関わる精巣の細胞に悪い影響が出ます。

 また、停留精巣と精巣腫瘍の発生には関連があることが知られています。停留精巣があった場合、精巣腫瘍がおこるリスクは4~5倍になると報告されています。

 停留精巣は、生後6カ月までであれば、自然に陰嚢内まで下降する可能性がありますが、生後6カ月を越えると、陰嚢内まで下降することはまずないといわれています。そのため、生後6カ月を越えても精巣が陰嚢の中になく、停留精巣のままであれば、精巣の温度環境を改善するために陰嚢内に精巣を固定する手術が必要になります。

 手術を行う時期は、以前は3歳ころまででも良いと考えられていました。現在は、精巣を固定する手術のときに採取された精巣組織の検討から、3歳では遅く、1歳前後、遅くとも2歳までには手術が必要と考えられています。

 手術をすれば治るのか、というご質問ですが、まれに、固定した精巣が再度陰嚢の外に上昇する可能性があるものの、ほとんどの場合、精巣は術後に陰嚢内に固定され、精巣の温度環境が良くなります。手術は、下腹部に約2センチ、陰嚢に約1センチ程度の切開を行います。

 ご質問によると、片方の精巣が停留精巣のようですが、もし無治療で経過観察した場合、精子の数などの異常を来す可能性が43~84%にみられると報告されています。それに対し、片方の停留精巣に対して精巣固定術を行った場合、精巣固定術後の精液検査所見は77~84%が正常であったという報告があり、無治療と比べると明らかに改善しています。

 また、正常な方と比べて差がなかったという報告もあります。将来、パートナーの女性が妊娠に至り、父親になることのできる割合は、66~90%と報告されています。

 もし、両方の精巣が停留精巣であったときは、無治療で経過観察をした場合、ほとんどが、精子の数が極端に少ない乏精子症あるいは無精子症になります。

 精巣固定術を行った場合、精液検査で正常であったのは42~50%、将来父親となれる可能性は33~65%と報告されており、片方だけの停留精巣より、これらの可能性は低くなります。

 手術により、精巣が腫瘍になる可能性が下がるかどうかについては、これまで十分な研究がなされてきていませんが、10歳未満で精巣固定術を受ければ、停留精巣が癌(がん)化するリスクは上昇しないという報告があります。

 以上より、停留精巣は適切な時期に精巣固定術を受ける必要があります。手術により、精巣の機能を守り、将来の妊娠に至る可能性が高くなります。

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