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【質問】慢性の便秘は病気か

 60代の男性です。急に便秘がひどくなり、何日も便が出ない慢性便秘の状態が1年続いています。内視鏡検査を受けましたが異常はありませんでした。検査の際に2リットルの下剤を飲みました。1リットル飲んでもまったく便意をもよおさないからです。水のように便が出ましたがその後止まるので、10分ごとにトイレでいきみました。便意が来ないのは病気でしょうか。

木村内科胃腸科 木村好孝 先生

【答え】生活習慣を改善して

 おなかに便がたまっているはずなのに便意を感じない便秘を「直腸性便秘」といいます。さまざまな便秘のタイプがありますが、直腸性便秘は若い方を中心に最近増えています。

 便意とは、腸と脳が相関して便を出す準備ができた合図のようなものです。

 <1>食事を取ると胃が動き出します<2>反射的に腸も動き出します<3>一定量の便がS状結腸にたまると腸の内圧が高まり、便が一気に直腸へ押し出されます<4>直腸にも一定量の便がたまり腸壁を刺激し「直腸反射」として脳へ知らされます<5>脳は肛門の筋肉(内側)を緩めるよう指令を出します。

 便意はこのような仕組みで起こります。ただ、肛門には内側(内肛門括約筋)と外側(外肛門括約筋)に筋肉があり、外側の筋肉は自分の意思で自由に締めたり緩めたりできるので、便意があっても排便を我慢することができるようになっています。必要以上に我慢し続けると、直腸に便があるにもかかわらず、便意を脳に伝える神経が鈍ってきて便意が徐々に弱くなり、「便意がない」体質になってしまいます。

 ご質問の方も同様の状態にあると考えられます。そうなると、直腸や肛門に便が来ていても分からなくなり、そのまま何日も便が出なくなります。さらに中にたまっている便が硬くなり、頑固な便秘となります。下剤やかん腸を多用することも、直腸神経が鈍化することにより、直腸性便秘の原因となります。

 治療法は、生活習慣を改善させることです。トイレに行く時間を生活リズムの中に組み込み習慣化することで、便意を促すことができるようになります。便が硬いままだと便意を感じにくくなりますので、食生活を見直して水分補給と食物繊維を多く含む食品を摂取するようにしてください。便秘が改善し、便意も正常に感じるような感覚が戻ってきます。

 便意を感じないのにトイレで長時間いきむのは、あまりよいことではありません。実際に便が直腸や肛門まで来ていないのに頑張って排便しようとすると、肛門に負担を掛けたり、長時間いきむことにより肛門周囲のうっ血につながって痔(じ)の原因になったりすることがあります。

 大腸内視鏡検査を受けたということですが、検査の際の2リットルの下剤は等張性下剤で、水による物理的な腸管内洗浄を起こす前処置薬と考えられます。1リットルを飲んでも効果に個人差があり便意が生じないこともあります。

 一時的に大腸内の便塊が腸管洗浄液をせき止め、その後、洗浄液とともに残便が水のように一気に流れたのではないかと推測されます。この下剤は服用した分だけしか排せつされず、体の中で吸収されないようになっているため、ほとんど排せつされると便意をもよおさなくなります。

 内視鏡検査では異常がなかったということですが、この等張性下剤は大腸内の癌(がん)などによる狭(きょう)窄(さく)部位に便塊が固着して腸閉塞を起こしたり、貯留液により腸管内圧が上昇して憩室や脆弱(ぜいじゃく)した腸壁を傷害することによる腸管せん孔(こう)になったりする報告例もあります。

 1リットル服用の際に排便がない場合は、腹痛がないことを十分確認した上で服用を継続してください。何かあればすぐ主治医と相談されることが重要です。

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