【質問】ピロリ菌除去した方がいいか
60代前半の女性です。おなかの調子が悪くて受診したところ、呼気検査で胃にピロリ菌がいることが分かりました。医師からは除菌を勧められているのですが、除菌すると胃酸の分泌が活発になり、逆流性食道炎になる例があると聞いたことがあります。除菌するかしないかの判断基準があるのか、また除菌による利点と欠点があれば教えてください。ちなみに、呼気検査による炭素13の値は16・9パーミル(千分率)でした。
由岐病院 本田壮一先生
【回答】胃炎なら実施望ましい
ヘリコバクター・ピロリ(ピロリ菌)は、1983年に発見された細菌です。保険診療で「除菌」(ピロリ菌を薬剤でとり除く治療)が認められている病気として<1>胃潰瘍<2>十二指腸潰瘍<3>胃MALTリンパ腫(特殊な胃の腫瘍)<4>特発性血小板減少性紫斑病(血小板が減少する病気)<5>早期胃がんに対する内視鏡治療後の胃-に加え、2013年2月に<6>ヘリコバクター・ピロリ感染性胃炎が承認されました。
質問者がこの胃炎なら、除菌治療が望ましいと考えます。診断には、胃カメラ(上部消化管内視鏡検査)と感染診断が必要です。質問者は、後者の感染診断として呼気試験(診断薬=炭素13で標識された尿素=を服用し、薬を飲む前と飲んだ後の呼気を調べる方法)を受けています。
2・5パーミルのカットオフ値(正常値)より高い場合、ピロリ菌陽性と診断されます。ちなみに、わが国のピロリ菌の感染率は若年者ほど低いことが知られています。60歳以上の感染率は50%以上です。
質問者は、胃カメラ検査を受けられているのでしょうか。以下に述べる除菌治療を保険診療で受けるには、胃カメラ検査が必須となっています。胃カメラでは、胃がんの有無、慢性胃炎の状態を診ます。逆流性食道炎を起こしやすい食道裂孔ヘルニア(胃が食道に引っ張られている病気)も診断されます。
また、私ども徳島県臨床内科医会では、ホームページ<http://tokurin.jp/>に、胃カメラを積極的に行っている医療施設のリストを示しています。
除菌治療は、3種類の薬(胃酸抑制薬を1種類、抗生物質を2種類)を1週間服用します。薬を飲んで4週目以降に、除菌できたかを検査します。約75%の患者さんが除菌に成功します。除菌に失敗した方には別の薬(2次除菌)があります。
除菌治療の大きな利点は、胃がん発生の危険度が減ることです。胃潰瘍や十二指腸潰瘍も再発しにくいことが知られています。ただし、質問者はピロリ菌が約50年感染していたと推定されるので、除菌後も1年に1度は胃カメラを受けることが大事です。
除菌の欠点は、少しは薬の副作用があることです。これらの薬で、下痢・軟便などが起きやすいことが知られています。またペニシリン・アレルギーの方は申し出てください。ご質問の逆流性食道炎の併発ですが、軽症のことが多いようです。<1>肥満にならない<2>食後すぐに横にならない<3>脂っこい食事を控える-ことを心掛けましょう。
胃がん撲滅のため、ヘリコバクター・ピロリ感染胃炎の除菌治療はメリットがとても大きいと考えられています。
胃カメラや感染診断・除菌治療は、多くのかかりつけ医が行っています。うまくいかない場合には、日本ヘリコバクター学会のH.pylori(ピロリ菌)感染症認定医や、日本消化器病学会、日本消化器内視鏡学会の専門医に紹介してもらったらよいと考えます。
除菌治療に加え、暴飲暴食を避け、運動などによるストレス解消、禁煙などで健康な胃腸を持ち続けたいものです。