新生児や未熟児がRSウイルスにかかると重症化することが知られています。さらに先天性心疾患児もRSウイルス感染症で重症化して入院率、集中治療や人工呼吸器の使用率、さらに死亡率が一般乳児よりも高くなることが知られています。
先天性心疾患で循環動態に異常のある場合、肺の循環血液量の増加または減少が起こり、肺に負担がかかっています。ここにRSウイルスの感染による肺胞上皮の障害や細気管支の閉塞が加わると、心疾患による低酸素血症や高二酸化炭素血症をさらに悪化させて重症化に導きます。従って心疾患で明らかに循環動態の異状を示す児や心臓手術や心臓カテーテル検査を予定して待機している児、呼吸器疾患を合併している児、染色体異常やその他の先天奇形を合併している場合などは、予防の対象として重要な状態と考えられます。
RSウイルスの感染症には特別な治療薬がありません。そこで大切なのは感染を予防することです。一般的な手洗いやうがい、感染者との接触予防のための隔離が大切です。
さらにRSウイルス感染症の予防として使用されるのがパリビズマブ(商品名シナジス)と呼ばれる遺伝子組み換えによるヒト化抗RSモノクロナール抗体です。RSウイルスの表面のF蛋白に結合することによってウイルスの感染性を中和し、ウイルスの複製・増殖を抑制します。
この薬剤をRSウイルスの流行する時期に合わせて1か月に1回、筋肉内に注射するものです。この注射液は非常に高価なためにすべての乳幼児に投与することはできません。接種対象者を早産児や先天性心疾患児に限定して接種します。
徳島新聞2012年11月28日掲載