徳島県小児科医会 日浦恭一
大腸菌は健康な人の腸管内に正常に存在して大切な働きをしている細菌のひとつです。しかし大腸菌の一部には病原性を持っていて人の腸管に感染して胃腸炎や下痢症をひき起こすものがあります。これが病原性大腸菌です。病原性大腸菌の中にはいくつかの種類がありますが、最も重要なのは腸管出血性大腸菌と呼ばれるものです。
腸管出血性大腸菌の病原性は志賀毒素とかベロ毒素と呼ばれる毒素によるものです。志賀毒素は赤痢菌が産生する毒素と同一のもので、病原性大腸菌にはこれよりも強力な毒素を持っているものも含まれます。これらの毒素に対する受容体が血管の内皮細胞、腎臓の尿細管上皮細胞、腸管の上皮細胞に在って、この受容体に毒素が結合することによって細胞障害が起こり、出血性大腸炎や溶血性尿毒症症候群などの重篤な疾患が起こる訳です。
大腸菌を血清型によって分類したものがO157やO111です。ベロ毒素を持つものの中で最も多いのがO157で、次いでO26やO111が残り数%を占めます。
病原性大腸菌はウシやヒツジの腸管内に居ます。これに汚染された食肉を生のまま食べれば感染する危険性があります。また食肉だけでなく野菜などの汚染された食物でも感染します。また腸管出血性大腸菌は感染力が強く1,000個の菌でも感染が成立すると言われます。特にO157は感染力が強く100個程度の菌数でも発病すると言われます。
この食中毒は感染力が強く、人から人への感染もあり、集団感染を起こすことがありますから注意が必要です。
徳島新聞2011年7月13日掲載