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【質問】異常なほど手を洗う

39歳になる息子が異常なほど手を洗います。ドア、冷蔵庫のノブなど自分の物以外の物を触ったときは、すぐ洗面所に行って手を洗っています。見ていると肘まで洗っており、最近は回数も増え、ひどくなっています。やめるように注意すると、余計に長く洗います。どうしてそんなに洗うのか分かりません。また、仕事が長続きせず、現在は一日中、家に閉じこもっています。何か精神的な病気でしょうか。



【答え】バランス失った脳薬で治療

徳島大学病院精神科神経科・心身症科 住谷さつき

 「異常なほど手を洗う」「手洗いがやめられない」。このような人は潔癖症とか神経質と呼ばれて性格の問題と考えられてしまいがちですが、異常な手洗いは「強迫性障害」という疾患によくみられる症状です。

 強迫性障害の人は、自分にとって汚いと感じる物を触ってしまうと、すぐに手を洗わなくてはいられません。「汚れている」という嫌な考えが浮かんで強い不安に襲われるからです。

 手を洗うと不安は少し治まりますが、洗い終わっても「やはり汚れているのではないか」と、さらに強い不安が浮かび、もう一回洗い直します。しかし、いくら時間をかけて丁寧に洗っても納得できず、さらに時間をかけて洗うという悪循環に陥ります。

 強迫性障害によくある症状は手洗いだけではありません。自分の不注意で火事や事故を起こさないだろうかと不安になって、戸締まりやガス、水道などの栓を何度も確認したり、車を運転中に事故を起こしていないか不安になって、見に戻ったりする人もいます。

 自分の過失で何か大変なことが起こるのではないかという不安が強くて確認を繰り返すのです。他にも、物の並び方や順番に対するこだわりが強かったり、大事な物をなくしてしまうような気がして物を捨てることができなかったりする人もいます。

 いずれも、自分の意志に反して嫌な考えが浮かんで強い不安にとらわれ、少しでも不安を和らげるために手洗いや確認など、本当はやりたくないことを繰り返してしまうのです。強迫性障害は「分かっているけれど、やめられない」のが特徴です。

 自分でばかばかしいと分かっているのに、繰り返し行為をやめることができないのですから、患者さんは大変な苦痛を感じており、気分も晴れません。症状がエスカレートすると学校や仕事にも行けずに家に閉じこもってしまい、社会的にも大きな障害を引き起こします。また、家族に確認を繰り返すなど、周りの人を巻き込むこともあります。

 強迫性障害は100人に2、3人の頻度で起こる疾患です。思春期から青年期にかけて発症することが多いといわれていますが、小児期や中年期以降に発症することもまれではありません。

 原因は不安を処理する脳の機能に変化を来し、必要のない過剰な不安にとらわれて制御できなくなっていると考えられています。以前は治りにくい疾患と思われていましたが、現在では治療することができるようになりました。

 治療には主に、脳内のセロトニンという物質の代謝を改善する薬を使います。薬を服用することで、バランスを失った脳の機能変化が正常化され、嫌な考えが浮かびにくくなったり、繰り返し行為を諦めやすくなったりします。

 患者さんの中には、薬がよく効く方と効きにくい方がいますが、薬の使い方を工夫したり行動療法というトレーニングを併用したりすることで改善がみられることの多い疾患です。一度、精神科を受診して相談することをお勧めします。

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