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県民の皆さまへ
 繰り返し発症 治るのか
 【質問】60代女性です。左肩後部が数分間むずむずし、虫が何匹もはっているような違和感があります。2、3回続いていったん治まるものの、少し時間がたつとまた繰り返し発症します。症状が出るのは左肩だけですが、とても気持ちが悪いです。どういう病気なのか、放っておいても治るのか教えてください。
ゆうあいホスピタル 坂本哲郎 先生
 治療へまず原因究明を
 【答え】痛みやかゆみに代表される身体の異常感覚は極めて自覚的な症状であり、他者が客観的に評価することは困難です。したがって、その原因を見つけるのも容易ではありません。まず、神経内科か整形外科的に異常がないか、あるいは内科的な合併症がないかなどを詳細に検討すべきだと考えます。その結果、身体的には何ら問題がないことが判明して初めてわれわれ精神科医の出番になります。
 精神科的に考えられるのは、まず、実体のない異常感覚として錯覚や幻覚があります。このうち幻覚には統合失調症などでみられる体感幻覚、アルコール依存症の患者が急に酒を断った時やコカイン依存にみられる幻触などがありますが、これらはまず考えにくいようです。次に心理的原因(情緒的葛藤や心理、社会、経済的ストレス)に基づく心気症や心因痛があります。これらも実際に診察してみないとはっきりと分かりませんが、可能性は極めて低いと考えます。
 基本的症状は異なるものの、唯一「むずむずする」という症状が極めて類似している疾患に「むずむず脚症候群」という病気があります。要点をまとめると、以下のような特徴があります▽安静時(特に就床直後)に下腿(かたい)を中心にむずむずと虫がはうような不快な感覚(蟻走(ぎそう)感)あるいは痛み、灼熱(しゃくねつ)感などのため入眠できない▽起きて歩いたりすると不快感は消失する▽不眠や睡眠不足で日中の眠気を訴える▽自覚症のみで客観的に症状を捉えることができない▽人工透析患者や妊婦、鉄欠乏貧血の人に起こりやすい▽睡眠中に四肢、特に向こうずねの筋肉が何度もつったようになり、周期的に足が甲側に曲がる(周期性四肢運動障害)▽女性に多く加齢とともに増加する-。さて、どうでしょう。どうも「むずむず脚症候群」と診断するにも少し無理がありそうですね。
 むずむず脚症候群では、症状の苦痛を家族や知人、さらに医師にまで理解されない苦しみを訴えることが少なからずあります。相談者も同様の苦しみを感じられているかもしれません。診断も大切ですが、やはり何か治療法がないかが重要になります。
 現在のところ、むずむず脚症候群の原因は不明ですが、極めて簡潔に説明すると、神経の働きを調節する神経伝達物質ドーパミンの減少が関与していると考えられています。治療薬には、ドーパミンの働きを増強するドーパミン作動薬(プラミペキソール)や抗てんかん薬(クロナゼパム)、医療用麻薬(オピオイド)などが用いられます。
 特に、プラミペキソールは安全性が高く、効果も確立されています。症状の原因がはっきりしない場合に用いる、いわゆる診断的治療として試してみる価値は高いと思います。
 
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