徳島県医師会 トップページへ

  • 文字サイズ標準
  • 文字サイズ拡大
文字サイズ変更について
県民の皆さまへ

【質問】 咳発作 いつ起こるか心配

 30代の女性です。成人後に「ゼーゼー」「ヒューヒュー」という呼吸音、呼吸困難、痰(たん)の症状が出るようになりました。咳(せき)が出ると横になって寝ていることができず、座ったまま目を閉じて寝ています。病院で処方された薬を飲んでいるので安定していますが、いつ発作が起こるか分からず不安です。完治はしないのでしょうか。また出産後、子どもに悪影響はないのでしょうか。



【答え】 気管支喘息 -吸入ステロイド薬が有効-

橋口内科クリニック 橋口淑夫(徳島市富田橋1丁目)

 最新の「喘息(ぜんそく)予防・管理ガイドライン2009」では、成人喘息は、気道の慢性炎症、気道狭窄(きょうさく)と気道過敏性の亢進(こうしん)、臨床的には繰り返し起こる咳、喘鳴(ぜんめい)、呼吸困難で特徴付けられる閉塞性呼吸器疾患と定義されています。すなわち「気道の慢性的な炎症が喘息の本態」ということです。

 喘鳴とは、「ゼーゼー」「ヒューヒュー」という呼吸音のことです。質問者は喘息発作の呼吸困難時、床につけずに座った状態で呼吸(起坐呼吸)しており、中等度呼吸困難(中発作)の状態です。

 喘息発作時は、気管支拡張作用を有する吸入式短時間作用性β(ベータ)2刺激薬を処方しますが、医師の指示以上の吸入は控えてください。発作が改善しない場合の緊急時の対応を、主治医と日頃から十分に相談しておきましょう。

 次に、喘息の管理・治療の目標は「健常人と変わらない日常生活が送れるようになること」、すなわち<1>夜間・早朝に咳や呼吸困難がなく、十分な夜間睡眠が可能<2>喘息発作が起こらない-ことです。発作が起きているのは、治療が不十分ということです。

 薬によるコントロールのポイントは「喘息の本態である気道の慢性的な炎症」に焦点を当て、炎症を抑える作用の強い「吸入ステロイド薬」が、治療ステップ1より推奨されています。

 その後のステップでは「吸入ステロイド薬を増量」し、「長時間作用性β2刺激薬の併用」か「吸入ステロイド薬と長時間作用性β2刺激薬の配合剤」を使用します。その他に内服薬で、気管支拡張作用と抗炎症作用を有するロイコトリエン受容体拮抗薬やテオフィリン徐放製剤なども、個々の症例によって併用されます。

 最近、これらの薬でなおコントロール困難な症例に抗IgE抗体(オマリズマブ)の皮下注射がガイドラインに追加されています。

 喘息の危険因子ですが、喘息の有病率は成人3%、小児6%程度です。両親が喘息の場合に、子どもの喘息発症率は3~5倍に高まるといわれていますが、この有病率をみると、喘息が子どもに必ず発症するとは考えにくいと思われます。

 喘息の発症には、個体因子(遺伝子素因、アレルギー素因、気道過敏性、性差)と環境因子(発病・増悪に関係するもの=アレルゲン、感染症、喫煙や大気汚染など)があります。発症には環境因子の影響も大きいと考えられます。

 喘息の完治ですが、小児では20~50%で、治療を終了しても無症状の状態が継続する「寛解」という状態になりますが、約半数において成人後再発します。成人で「寛解」になるのは10%以下といわれています。これは、無症状になってもアレルギーによる気道炎症が継続しているからです。

 最近、ダニアレルギーに対する新しい治療薬(舌下免疫療法)が開発されました。アレルギーそのものに対する治療で、完治に近い効果が期待されます。臨床治験という形で喘息患者への投与が始まりました。県内にも臨床治験に参加している施設があります。

 最後に「健康とは勝ち取るもの」ともいわれます。この病気に絶対に勝ってみせるとの強い気持ちや生命力と、前向きな楽観主義をもって、悠々と病気や環境を見下ろし、克服されることをお祈りいたします。

徳島新聞2012年9月2日号より転載

© TOKUSHIMA MEDICAL ASSOCIATION.