徳島県医師会 トップページへ

  • 文字サイズ標準
  • 文字サイズ拡大
文字サイズ変更について
県民の皆さまへ

【質問】 尿検査陽性 糖尿病など心配

 75歳の母のことで相談します。半年に1回、定期検査をしていますが、今回、尿検査の結果が「蛋白(たんぱく)が3+、糖±」でした。医師には様子を見ましょうといわれたのですが、糖尿病や腎臓の病気ではないのかと心配しています。次回の定期検査まで、このままでいいのでしょうか。再検査をしてもらったほうがよいのでしょうか。痛風ともいわれていて薬を飲んでいますが、最近は薬がなくても尿酸値は正常なまま安定しています。



【回答】 高齢者の蛋白尿 -大量ならがん検索必要-

伊月病院 医師 山野利尚(徳島市徳島町2丁目)

 75歳の女性が、尿検査で「蛋白3+、糖±」であったが、このまま様子をみてよいかというご質問です。半年に一度、定期健診を受けられているとのことですから、同じ医療機関、特にかかりつけ医であれば、お母さまの病状をよくご存じだと思いますので、その指示を尊重されたらよいと思います。

 「蛋白3+」とは、300mg/dl以上のことですから、腎障害は相当進行していると考えられ、ネフローゼ症候群レベルの状態です。おそらく食事療法などの指示を受けられていると思います。浮腫などの症状はないのでしょうか。

 患者は、医師から病状を説明されると、その時の受け取り方によっては気が動転し、医師の説明を正確に理解されていないこともあります。心配なら、お母さまの受診に同行されて、今の状態を確認することをお勧めします。

 その際に聞いておく必要項目は、今までに尿蛋白の陽性が続いていたのか、今回初めての蛋白尿であったのか、血清クレアチニンや糸球体濾過(ろか)値などの腎機能、血圧、血糖値、脂質、貧血の有無、その他全身的な検査などです。

 尿糖がわずかに出ています。腎機能が低下すると糖の排せつ閾値(いきち)が低下し、血糖値が正常でも尿にわずかな糖が出ることがあります(腎性糖尿)。他方、進行した糖尿病性腎症では、血糖値が正常値に近くなり、尿糖が陰性になることがあります。糖尿病ではないかとのご指摘がありますが、この点は、その医療機関で十分に検討されていると思います。

 また、お母さまは高尿酸血症の既往があります。高尿酸血症は、女性はホルモンの関係で男性より少ないのですが、体質や食事内容以外に、悪性腫瘍を含む代謝亢進(こうしん)状態、腎機能障害の進行した状態、薬物による尿酸排せつ障害などでもみられます。

 しかし、今は尿酸の薬がなくても正常になられているようですから、ひとまず安心です。高尿酸血症による痛風腎では腎尿細管障害ですから、明らかな蛋白尿はあっても軽微です。

 腎臓病では、尿蛋白量を知ることは大切ですが、それ以上に、腎機能を知っておくことが重要です。血尿の有無、尿沈査(6E23)(ちんさ)で腎炎の目安になる円柱の有無も見逃さないようにします。腎機能検査は、腎血流量、糸球体濾過、尿細管機能などいろいろな方法が可能ですが、通常は、糸球体濾過能をみる血清クレアチニンで代用されています。

 血清クレアチニン値は、体格や筋疾患などで増減があり、特に、糸球体濾過値の腎機能は30%以下に減少して初めて異常値を示します。ですから、血清クレアチニンのみをみていると腎疾患の治療が手遅れになり、人工透析の時期が早まります。

 腎疾患で最も知りたい糸球体濾過値の検査は、やや煩雑なため、最近、日本腎臓学会が血清クレアチニン値、年齢、性別から日本人の糸球体濾過値(eGFR)の計算式を作成し、この値を血清クレアチニン値に併記するようになっています。

 質問では、いくつかの疾患名が挙げられていますので、最後に、高齢者に多い腎(糸球体)疾患を列記しておきます。膜性腎症、微小変化型ネフローゼ症候群、巣状糸球体硬化症、IgA腎症、高血圧性腎硬化症、糖尿病性腎症、C型肝炎ウイルス関連腎症などがあり、特に、高齢者で比較的に急に大量の蛋白尿を来す場合は、がんによる膜性腎症のことがありますので、がん検索が必要です。

 お母さまに今自宅でできることは、食事療法(低蛋白食・減塩)と血圧管理です。

徳島新聞2011年5月29日号より転載

© TOKUSHIMA MEDICAL ASSOCIATION.