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【質問】 安定剤服用も回復せず

 50代後半の女性です。パニック障害と診断されています。1日3回、不安や緊張を和らげる安定剤を飲んでいますが、あまり状態が良いとは感じられません。これからのことが不安で悩んでいます。何でもいいのでアドバイスをください。



【回答】 パニック障害 -抗うつ剤の併用が効果的-

枝川クリニック 枝川浩二(徳島市大和町)

 まず、パニック障害の典型的な症例を紹介しましょう。それまで大きな病気はしたことがなかった39歳の主婦のケースです。

 自宅で夕食後に家族と一緒にテレビを見ながらくつろいでいたところ、突然心臓がどきどきして息苦しくなり、めまいや発汗がひどくなって手足もしびれ始めました。「このまま死ぬのではないか」という強い恐怖を感じ、救急車を呼んで総合病院へ向かいましたが、病院に着くころには発作が収まりました。心電図や血液検査でも異常はなく、結局点滴を受けて帰宅。しかし、その後も同じような発作が前触れなく繰り返して起こるため、不安と恐怖で外出もできなくなったというものです。

 このように、動悸や呼吸困難などの身体症状とともに強い不安や恐怖に襲われる症状を「パニック発作」といい、この発作が繰り返し起こる病気を「パニック障害」といいます。100人に1~2人がこの病気になるといわれており、決して珍しい病気ではありません。

 パニック障害は、「気のせい」や「性格が弱い」ために起こるのではなく、心臓や肺の病気でもありません。自律神経の発作で生じる「脳の病気」です。

 発作は突然出現して10分以内にピークになりますが、多くは30分以内に自然と治まります。パニック発作は本当に恐ろしいものですが、死ぬことは絶対にありません。発作が繰り返されると、「また起こるのでは」という「予期不安」の状態となり、これが強くなると、発作を起こすと困るような状況を避ける「広場恐怖」と呼ばれる状態となり、外出もできなくなることがあります。

 パニック障害は治療により間違いなく改善します。薬物療法は、失調した脳の働きを正常にすることで効果が期待できますが、それには抗うつ薬が有効です。ご質問の方は安定剤(抗不安薬)を服用しているとのことですが、主治医とも相談の上、「SSRI」という抗うつ剤を併用されることをお勧めします。ごく少量から開始して、吐き気などの副作用を抑えながら、パニック発作が消失するまで薬を十分に増量することが重要です。

 効果はすぐには出ないので、半年から1年くらいは服薬を続けることが大切です。急に服薬を中断すると、数日後にめまいやだるさなどの中断症状が出ることがあるので注意が必要です。発作が起こらなくなって生活に自信が出てくれば徐々に薬を減量し、最終的には「安定剤を持っていれば大丈夫」という状態になります。

 服薬するだけではなく、積極的に自分で治すという気持ちが大切です。パニック発作が消失しても、少しの環境の変化や刺激から再発することもあります。そんなときには絶望的にならず、主治医と一緒に対処法を考え、それを試してみるチャンスというように、前向きに考えてください。

 発作に振り回されずに日常生活が送れることが治療の目標です。発作をある程度は受け入れるという心構えも必要かと思います。

徳島新聞2010年4月4日号より転載

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