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【質問】 右肩から下にしびれが

 56歳の会社事務員です。数年前から肩こりに悩まされています。右肩のみで左肩はぜんぜんこりません。以前は湿布やウオーキングをすると楽になりましたが、最近は何をしても効果がありません。1カ月くらい前にスクワットをして、1週間ほど夜も眠れないほど肩甲骨のあたりが痛みました。そのあと痛みは少し取れましたが、肩からひじにかけて抜けるようなだるさや、ひじから親指の先に向かってじりじりとしたしびれを感じるようになりました。単なる肩こりなのか、ほかに原因があるのか心配です。関連があるかどうか分かりませんが、5年くらい前から右耳に耳鳴りがあります。



【答え】 頸椎症性神経根症 -肩こり以外の症状に注意-

津保整形外科 院長 津保 雅彦(鳴門市大麻町桧)

 肩こりの原因を考える上で大切なのは▽どの部位か▽運動によって悪化するのか▽肩の運動範囲が制限されていないか▽しびれなど他の症状を伴っていないか-などです。肩こりを起こす主な病気には、次のようなものがあります。

 一つは脊椎(せきつい)疾患です。脊椎のうち常にストレスにさらされている部分が首のあたりの頸椎(けいつい)です。頸椎の疾患には▽骨が外傷や老化で変形して生じる変形性頸椎症▽骨と骨の間にありクッションの役割をしている椎間板(ついかんばん)の髄核が後方へ移動、飛び出たヘルニアが神経を圧迫する椎間板ヘルニア▽頸椎の骨の後面で頸椎同士をつなぐ靭帯(じんたい)が何らかの原因で骨に変化、脊髄や神経を圧迫し、さまざまな症状を引き起こす頸椎後縦(こうじゅう)靭帯骨化症-などがあります。

 肩関節の疾患も考えられます。五十肩といわれる肩関節周囲炎は、肩関節周囲に激しい痛みと関節の運動障害をきたします。腱(けん)に石灰が沈着、関節のはれと激痛を伴う石灰沈着性腱炎や、外傷によって痛みと腕の挙上障害を伴う腱の断裂もあります。

 また、胸郭出口症候群も想定されます。神経や血管が胸郭、鎖骨、筋肉などの間で圧迫されて起こる疾患で、手や腕の血行障害や肩こり、手のしびれのほか、冷感や腕全体のだるさを生じます。このほか、血圧異常や動脈硬化、貧血、心筋症など内科疾患が原因となることもあります。

 さて、質問の内容では肩の運動による痛みなどがないことから、肩関節の疾患ではないと考えます。また、手を挙げても障害がないことなどから、胸郭出口症候群も除外されます。内科疾患は不明ですが、頸椎疾患が考えられ、頸部椎間板ヘルニアと変形性頸椎症の両者が疑われます。

 スクワットの姿勢で頸椎に負担がかかり、肩甲骨のあたりに痛みを生じたとみられ、肩からひじにかけてのだるさやひじから親指に向けてのしびれを生じていることから、脊髄から枝分かれしたばかりの神経部分の刺激症状と思われます。症状の進行が緩やかなことからすると、変形性頸椎症の可能性が高いと思われます。

 原因不明の耳鳴りは、脳への血管に沿った神経の圧迫や、首の筋肉の緊張が続くことでその内部の神経を圧迫していることなどから出てきたのかもしれません。

 診断は病変部を推定したあと、レントゲン検査を行い、頸椎の並びや変形、椎体間のすき間などをチェックします。MRIは椎間板や神経根、脊髄の圧迫の状態も分かり有効です。

 治療はけん引、温熱、薬物などの療法がまず用いられ、特に強い痛みがある場合は固定装具で頭部を支持します。しかし、こうした治療で効果があまりみられない場合は手術になります。

 相談者は事務員とのことで首を曲げての仕事が多いと思いますが、長時間同じ姿勢を続けず、ときどき首の周りの筋肉をほぐす運動をしてください。整形外科専門医を受診して精密検査を受け、適切な治療を受けることも勧めます。肩こりはありふれた症状ですが、何かの病気の一症状のこともあり、十分注意することが大切です。

徳島新聞2007年9月30日号より転載

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