【質問】 葉状腫瘍治療経て肝腫瘍宣告
52歳の主婦です。7年前に、葉状腫瘍で右乳房を全摘出しました。その後、健康診断で肝腫瘍と言われたのですが、昨年から広がっているようです。どんな治療をすればよいのでしょうか。ちなみに母もがんで亡くなっています。
【答え】 転移性肝腫瘍 -精密検査後に専門医を受診-
徳島市民病院 消化器・肝胆膵外科 三宅 秀則
乳房の葉状腫瘍に関連した肝腫瘍を心配されてのご質問と思われますが、他の原疾患による肝腫瘍の可能性もあるので、肝腫瘍一般についてお答えします。
肝腫瘍には非常に多くの原因疾患があります。肝腫瘍といっても、肝臓そのものに最初からできた原発性肝腫瘍と、他臓器に原発した腫瘍が肝臓に転移してできた転移性肝腫瘍とに大きく分けることができます<図参照>。原発性肝腫瘍の中には悪性のものと良性のものがあり、転移性肝腫瘍はすべて悪性と考えていいと思われます。
まず、原発性肝腫瘍ですが、悪性例の95%が肝細胞がんであり、ほとんどがB型あるいはC型肝炎ウイルス感染患者に合併しています。従ってB型、C型の慢性肝炎や肝硬変の患者さんは定期検査を受けることにより、早期発見が可能になります。良性では肝血管腫が最も多く、その他に腺腫などがありますが、診断がつけば大部分は治療の対象になることはありません。
次に転移性肝腫瘍ですが、肝臓以外に発生した腫瘍細胞が血流やリンパ流によって肝臓に運ばれて腫瘍を形成するものです。原発部位としては大腸、胃、すい臓、肺、乳腺などが多いですが、他のどの臓器でも原発部位となりうる可能性もあります。
相談者は、以前に乳房の葉状腫瘍で手術を受けられており、肝腫瘍は葉状腫瘍の肝転移巣である可能性があります。しかし、葉状腫瘍の肝転移症例の報告はまれであり、葉状腫瘍からの転移以外の肝腫瘍の可能性を十分考えて診断・治療を進める必要があります。
肝腫瘍の診断は、腹部エコー検査、CT検査またはMRI検査を行うのが一般的です。これらに加え、血液検査で腫瘍マーカーを測定すれば診断はほぼ100%可能です。転移性肝腫瘍の場合、さらに原発部位を特定する目的で胃や大腸など消化管の精査が必要になることもあります。このような検査を受け、肝腫瘍の原疾患の診断をつけることが最も重要です。悪性と診断された場合にのみ治療が必要になります。原発性肝腫瘍に対しては肝切除による病巣の摘出が治療の第一選択になることが多いのですが、肝細胞がんのように合併しているウイルス性肝炎のため肝機能が低下している場合は、抗がん剤による治療やラジオ波焼灼(しょうしゃく)療法などの適応になることがあります。
転移性肝腫瘍は切除の適応にならない場合も多くありますが、疾患によっては外科的切除が治療方法として選択されることがあります。特に大腸がんの肝転移症例は、肝切除によって予後が改善することが分かっています。それに比べて、すい臓がんや乳がんの肝転移巣は切除しても予後は改善されないとの理由で、切除の対象になることはまずありません。抗がん剤による治療が中心になります。
相談者の場合、もし乳房の葉状腫瘍からの転移性肝腫瘍であれば、報告例が非常に少ないために治療方法は確立していないのが現状です。しかし、葉状腫瘍は同じ乳房に発生する乳がんとは性格の異なる腫瘍なので、切除適応のない乳がんの肝転移巣と違い、腫瘍個数や病巣の進展範囲によっては肝切除の適応になる場合があると思われます。
お尋ねのケースでは、まず精密検査を受け、肝腫瘍の中でもどのような疾患による肝腫瘍なのかを診断することが最も重要と思われます。そして、診断がつけば、治療方法は疾患によって非常に多岐にわたり、選択肢が多いので、できれば肝臓専門医がいる病院を受診し、インフォームドコンセント(十分な説明と同意)を受けた後、治療を受けられることをお勧めします。