徳島県医師会 トップページへ

  • 文字サイズ標準
  • 文字サイズ拡大
文字サイズ変更について
県民の皆さまへ

【質問】 一人暮らしの母 体調崩す

 一人で暮らしている80歳の母が体調を崩し、内科で検査したところ、軽い老人性うつ病に神経不安症と診断されました。現在も思わしくなく、昼間は目を閉じても眠れず、夜は安定剤を服用しており、血圧の薬ものんでいます。苦しい日は食事もあまり進まず、肩で息をしながら寝たり起きたりの状態です。症状を改善するよい方法はないでしょうか。



【答え】 老年期うつ病 -家族協力し薬物療法を-

南海病院 川端 茂雄(鳴門市鳴門町土佐泊浦)

 この症例では、すでに内科での検査を受けられて精神科的な疾患を指摘されていること、その年齢、家族からみた日常の状況から察すると、まず老年期うつ病と考えられます。

 うつ病はいろいろな年代に発病しますが、30歳代の後半以降に多い病気とされています。

 一般的なうつ病の症状は、憂うつな気分、意欲の低下、思考力低下の三つの精神症状に、睡眠障害や意欲不振を主とした身体症状が重視されております。

 老年期のうつ病がほかの年代のうつ病と違う特徴として、何点か挙げられます。例えば、身体的な衰え、慢性の身体疾患の合併、肉親との死別といった喪失体験などがうつ状態の誘引になることが多く、その7割以上になんらかのきっかけとなるストレスがあるともいわれております。

 より具体的に言いますと、しばしば外見上は精神的にそう深刻にはみえない半面、じっとしていられない、身の置き所がない、という焦燥感や不安感が他の年代のうつ病に比べて強い傾向があります。また訴えの中心が身体症状であるため、専門外の医療機関を受診しているケースが多いようです。

 まず行うべきことは、速やかに苦痛を除くことです。それには薬物療法と精神療法を基本に、それに加えて安静療法、環境調整を行います。相談の症例では治療を開始してどのくらいの期間経過しているのか、また安定剤とはどのような種類(抗不安薬、抗うつ薬、睡眠導入剤)のものが用いられているのか分かりませんが、通常は数種類ある抗うつ薬の中から選び処方します。

 一般的に抗うつ薬は、服用し始めてから効果が出るまでに10日から2週間ぐらいかかるのが普通です。また抗うつ薬には、喉(のど)の渇き、便秘、だるさ、眠気、低血圧などの副作用があります。特に老人の場合には慎重な身体管理のもとに少量(成人の常用量の3分の1程度)から使用するため、頻繁に診察が受けられる治療体制が必要です。

 なお近年では従来型の抗うつ薬に比べ、副作用の少ないSSRIという新しいタイプが使われるようになり、老年期うつ病の治療成績も良好なようです。

 精神療法では、本人の症状や悩みによく耳を傾け、きちんと治療すれば病気は治るとの保証を与えることが主となります。

 もう一点、一人暮らしでの通院治療を行っておられますが、先にも少し触れたように、現行の治療方針でいく場合、常時母親の状態を見守れる家族の協力体制を整えることと、通院に付き添い、日常の状態を主治医に報告することが重要です。なお、経過が思わしくない場合は、主治医と相談のうえ、専門医療機関との共診なども考慮されるようお勧めします。

 いずれにしろこのケースの場合、80歳という高齢に加え、食欲低下による栄養不良と脱水状態、不眠状態による体力消耗が今後の病状に大きく影響してくる可能性が危惧(きぐ)され、速やかな対応が必要と考えられます。

徳島新聞2002年1月27日号より転載

© TOKUSHIMA MEDICAL ASSOCIATION.