【質問】 左手打ちかけ痛く不眠
62歳の女性です。左手打ちかけが痛んで眠れないことがあります。眠れないとますます痛く感じて、安定剤をもらっていますが、あまり効果はありません。そもそも10年くらい前から、肩がよく凝り、時には頭痛がして、整形外科で注射や投薬、湿布の治療をしながら仕事を続けていたのですが、「使い痛め」だと言うので、働くのを控えてきました。最近、加齢も重なって、左手打ちかけの慢性痛がひどくなってきたのです。性格が神経質で、仕事をやめるといろいろと考えることもあって、不眠になっているようにも思います。多少歩いたり、畑で草引きもしています。どんな治療をしたらいいでしょうか。
【答え】 変形性頚椎症 -固定用装具で負担軽減-
田岡病院 整形外科 木下 勇(徳島市東山手町1丁目)
痛むところを“手打ちかけ”と表現されていますが、首の付け根から肩関節のところにかけての部分(肩甲帯=けんこうたい)と解釈しました。この部分に痛みや凝りを来す主な疾患には次のようなものが挙げられます。
(1)頚椎(けいつい)の疾患には、変形性頚椎症があります。
これは、脊椎(せきつい)骨と脊椎骨の間にあるクッションのような軟骨(椎間板)が、加齢的変化や外傷によって変性し頚椎が変形する疾患です。
頚椎を互いに連結している小さな関節が変形して痛みが出たり、首、肩、腕に出ている神経を刺激したり圧迫したりして、痛みや凝り、しびれか生じ、中には手の力が弱くなるといった症状を伴うこともあります。こういった状態は別名、頚椎症性神経根症とも呼ばれ、頭の動かし方によっては首から肩、腕、さらに手の方へ痛みやしびれが広がります。
そのほか、椎間板が後方へ膨らんで盛り上がったり、脱出したりする椎間板ヘルニア、靭帯骨化(じんたいこつか)症、頚椎や頚髄の腫瘍(しゅよう)といった特殊な疾患もありますが、多くは手や腕だけでなく、足にも症状が現れます。また、頚部周辺に痛みがあると、筋肉が緊張して頭痛(筋収縮性頭痛)を来たしやすくなります。
(2)頚椎周辺の疾患には、胸郭(きょうかく)出口症候群があります。頚椎から少し離れたところで、神経、血管が、胸郭(ろっ骨)、鎖骨、筋肉などで圧迫されて肩凝りや手のしびれを来します。若年者でなで肩の女性に多い疾患です。
(3)肩関節の疾患では、肩関節周囲炎(50歳前後にかかりやすいので、五十肩ともいわれている)が代表的です。肩関節の周囲の腱(けん)や、関節の動きを滑らかにする作用のある滑液包(かつえきほう)が加齢的変化や使い過ぎで、小さい傷を受けたり、癒着して痛みや凝りを来たします。
多くの場合、肩関節の動きも制限され、無理に動かそうとすると痛みが増強します。日常動作とさして変わらない動作や小さな外傷がきっかけになって起こることが多いです。中には激痛で発症することもあります。この場合は、腱に石灰が沈着した石灰沈着性腱炎や腱の断裂が疑われます。
これらの診断には、理学所見(診察)で病変部を推定し、レントゲン検査を行い、必要であれば、CT検査やMRI検査などの精密検査を実施します。
さて、ご質問の内容、年齢、主治医の先生の意見からしますと、変形性頚椎症によるものと思われます。
次に治療法ですが、まずこれまで受けて来られたように、鎮痛剤や筋緊張緩和剤、湿布、局所注射が行われます。
さらに、頚椎のけん引療法や頚椎固定用装具による頭部の支持が有効なことがあります。これらは局所の安静や筋肉の緊張を和らげ、鎮痛効果につながります。特に急性期、また慢性期においても強い痛みがある場合は、装具による支持が負担を軽減し、効果的です。
健康時には、頚椎を支柱にして首から肩にかけての筋肉が、数キロある頭を無意識に支え、動かしていますが、痛みがあると大きな負担になるのです。
以上のような保存(非手術)療法でも効果がなく、痛み、しびれや力が弱くなるなどの神経症状が頑固な場合には、手術療法が考慮されます。