【質問】恐怖心を克服するには
30代の女性です。半年ほど前、突然、動(どう)悸(き)がして息苦しくなり、病院に運ばれました。過呼吸だと診断されましたが、その後も発作が起こるので心療内科に行くと、「パニック障害」であることが分かりました。恐怖心を克服するための方法や治療における心構えを教えてください。
鳴門シーガル病院 福永明広院長
【答え】二次障害の予防が大切
パニック障害とは、繰り返して突然襲ってくるパニック発作と、発作が反復するために生じてくる生活上の障害で診断されます。
まず、パニック発作ですが、不安を引き起こす状況とは無関係に、多彩な自律神経症状(動悸、発汗、呼吸困難、目まい、震え、嘔(おう)気(き)など)が突然起こり、これまで経験したことのないような不安や恐怖を感じます。
発作は数分から30分以内に治まるのが普通ですが、「このまま死んでしまうのではないか」という不安のために、病院を救急受診することが多いようです。病院に到着するころには発作が治まっているため、心電図検査だけで「異常なし」と帰されることになります。
ですから、パニック障害と診断されるには時間を要することが多いのです。ただし、パニック発作に類似した症状は、他の身体疾患でも見られるので注意が必要です。例えば、狭心症、メニエール病、過呼吸症候群、甲状腺疾患などとの鑑別が大切になります。
パニック発作を一度経験すると、「またあのような恐ろしい発作が起こるのではないか」という不安が強くなります。これを「予期不安」と言います。予期不安がさらにパニック発作を引き起こすという悪循環が起こります。
また、パニック発作が起こったときに他から助けが得られないような状況(乗り物、人混み、橋の上、トンネル内など)を回避するようになり、ひどくなると、家から外出することもままならなくなります。これを「広場恐怖」または「外出恐怖」と言います。
さらに、パニック発作が慢性化してくると、半数以上の人は、うつ状態を呈するといわれています。このように、たった1回のパニック発作から「外出できない」「うつ状態になる」といった二次障害を引き起こす可能性があるのです。
パニック障害は、みなさんが考えるよりよくある病気です。100人中2人くらいの発症率で、青年期から30代半ばまでに発症することが多く、男性よりやや女性に多いといわれています。
治療は、患者さんにこの病気をよく理解してもらうことと、薬物によるパニック発作のコントロールが基本となります。まず、発作は気のせいなどではなく、脳内のセロトニン、ノルアドレナリンといった神経伝達物質の機能異常によるものであること、少しも生命の危険はなく適切な治療によって治る病気であることを説明します。
薬物治療は、以前は少しでも不安を軽減するために抗不安薬が中心でした。しかし、抗不安薬は一時的には効き目がありますが、パニック発作そのものを抑制できないことや、依存性などの問題から、現在はほとんど使用されなくなりました。
代わりに、SSRIという抗うつ薬が治療の中心になっています。先に述べた予期不安や発作がコントロールされて、患者さんは生活に自信を持つようになり、自然と外出もできるようになります。タイミングを見て、回避していた恐怖状況に徐々に挑戦する行動療法(エクスポージャー療法)を併用することもあります。
何よりも大切なことは、二次障害に至る前に早く適切な診断と治療を受けることだと思います。