【質問】乳児は手術に耐えられるか
生後間もない長男が「心室中隔欠損症」と診断されました。心室中隔に小さな穴が開いているようです。たちまち日常生活に支障が出る状態ではありませんが、1年以内に手術をする予定です。乳児が耐えられるのかどうか心配でたまりません。危険性は高くないのでしょうか。
徳島大学病院心臓血管外科 北市隆 先生
【答え】病状に合わせ時期考慮
心室中隔欠損症は、先天性心疾患の中で最も頻度の高い病気です。全先天性心疾患の50~60%を占め、千人につき1・5~2人の割合といわれています。四つある心臓の部屋のうち、下半分の右心室と左心室という部屋の間の隔壁に穴が開いている病気です。
この穴を介して左心室(圧が高い)から右心室(圧が低い)へ血液が短絡(体循環の血液と肺循環の血液が混じる)し、肺への血流が増加します。このため、穴が大きいほど肺はうっ血しやすくなり、心臓の左側上部を占める左心房と、左心室の負担が増え、多呼吸、発汗過多、ほ乳力低下、体重増加不良を来す心不全となっていきます。
そのような場合、まず利尿剤や強心剤のような薬物治療がなされます。また小さな穴であれば多くは1年以内に、自然に欠損孔が閉鎖して手術が不要な場合もあります。
息子さんが、すでに手術が必要と診断されているのであれば、自然閉鎖が難しい大きさの欠損孔と考えられます。この場合の手術時期に関してですが、左心室から右心室に流れる短絡量と症状によって決まってきます。
短絡量が多く、前記のような症状が認められる場合には、1歳未満の乳児期でも手術が必要になります。一方、短絡量が比較的少なく、成長もほぼ正常に認められる場合には、幼児期や就学前に手術を行うことが多いです。
手術は、根治術としては人工心肺を使用して一度心臓を止め、心臓の一部(多くは心臓の右側上部を占める右心房)を切開して欠損孔を人工布のパッチで閉鎖する心室中隔欠損閉鎖術を行います。この人工布は時間の経過とともに心臓の構造に取り込まれるため、成長後も取り換える必要はありません。
もし、お子さまの体重が2・5キロより軽かったり、他の病気のために全身状態が悪かったりするなど、根治術が危険と判断された場合には、姑(こ)息(そく)手術として肺動脈絞(こう)扼(やく)術を行います。これは肺動脈を細いテープで締め付けることで肺への血流を制限し、一時的に症状の軽減を図るものです。本手術の後、成長を待って1歳前後で根治術を行います。
ご質問の手術の危険性についてですが、根治術の死亡率は最近の報告では1~2%程度といわれており、重症度や手術時の年齢、心臓以外の合併症などによって変わるものと考えられます。
当院における最近10年間では、他に合併する心病変のない単純な心室中隔欠損閉鎖の手術はおよそ100例あります。そのうち約半数が1歳未満で行われていますが、死亡や大きな合併症を来したことはありません。
また術後は、現在、体重増加不良などがあったとしても、やがて他の正常なお子さんに追いついて通常の発育を期待できますし、運動制限などもないのが一般的です。
むしろ、手術時期が遅れると肺の血管が傷んでしまい、術後に肺高血圧が残ることがあります。この場合、肺高血圧の程度によって多少の運動制限が生じることがありますので注意が必要です。
以上から、いたずらに手術の心配をされることなく、お子さまの現在の病状に合わせて手術のタイミングを考えてあげることが重要と思われます。この点を主治医の先生とよく相談していただければと思います。