【質問】「海馬がやせている」と言われた
60代の妻が最近の記憶を一時的になくすことがあるので、病院で診てもらったところ「海馬がやせている」と指摘され「自分が自分であることすら分からなくなる可能性もある」と言われました。再受診を考えているのですが、どうすればいいでしょうか。
県立中央病院神経内科 島谷佳光先生
【回答】 認知症の恐れ 再診を
質問を拝見したところ、物忘れが問題のようです。まずは海馬という言葉が出てきました。海馬はその形がタツノオトシゴに似ていることからそう名付けられたといわれています。脳の左右にあり、大脳辺縁系の一部を形成しています。海馬は記憶や空間学習能力に重要な役割を果たしています。
海馬の障害の原因としては、さまざまな病気が考えられます。認知症の代表的な病気であるアルツハイマー病では早期から海馬の萎縮が見られますし、アルツハイマー病以外にも、てんかん、脳炎、脳血管障害などさまざまな病気で海馬の障害が起こります。
今回の症状は「記憶をなくす」であり「自分が自分であることすら分からなくなる」可能性が指摘されています。認知症は「通常、慢性あるいは進行性の脳疾患によって生じ、記憶、思考、見当識、理解、計算、学習、言語、判断等多数の高次脳機能の障害からなる症候群」と定義されています。ご相談の症状はこれに当てはまると考えられます。
認知症の原因となる病気はアルツハイマー病、血管性認知症、レビー小体型認知症が多いのですが、他にもたくさんあります。脳腫瘍、頭部外傷、ウイルスなど脳の感染症、内分泌機能異常、ビタミン欠乏による栄養障害、肝機能障害・腎機能障害などです。
治療法は病気によって異なります。認知症の中には治らない病気(治療法がない病気)も多くありますが、治療可能または予防可能な病気もあります。治らない病気でも症状を幾分か良くする、進行を少しでも遅らせる方法もあります。
症状の起こり方は「一時的」とあります。もし一時的ならば一過性全健忘やてんかんの可能性もあります。一過性全健忘ならば通常、一生に一回しか起こりません。てんかんは発作予防薬の内服が必要です。
以上のように認知症といってもさまざまな原因があり、治療もそれにより異なります。ぜひ再診を受け、きちんと調べてもらうのがよいでしょう。認知症の診療は神経内科、精神科、脳神経外科が中心になります。「物忘れ外来」を開設している病院もあります。
受診の際は、家族の方が付き添われるのをお勧めします。患者さん一人で受診される場合もありますが、認知症のために、症状や生活状況などの情報が医師にうまく伝わらないこともあります。その場合には特に同居している家族の方からの情報が重要になります。
以上、認知症を中心にご説明しました。認知症にはさまざまな原因があり、その人に合った治療法を見つけてもらうことが大切です。