徳島県小児科医会 日浦恭一
腸管出血性大腸菌感染症の合併症の中で最も重篤なものは溶血性尿毒症症候群です。これは腸管出血性大腸菌感染症の約10%に発生しますが、年齢が低いほど合併する率が高いと言われます。
腸管感染を起こした腸管出血性大腸菌のベロ毒素は腸管の血管内皮細胞を破壊し、出血性大腸炎を起こし、その後、ベロ毒素は腎臓を傷害して溶血性尿毒症症候群を発症します。
激しい腹痛と下痢、血便をともなった腸炎の出現後3~10日目に貧血や血小板減少、腎機能低下による尿量の減少や無尿を認めた時には本症の発病を疑います。
溶血性尿毒症症候群の約20%に中枢神経症状をともない、意識障害やけいれんが見られます。神経症状が見られる時には腎不全の治療に並行して脳炎・脳症に対する治療を行う必要があります。
腸管出血性大腸菌感染に対する治療は対症療法です。初期にある種の抗生剤療法が有効であるとの報告もありますが、下痢止めや腹痛に対する痛み止め薬は腸管の動きを抑制して大腸菌やベロ毒素の排出を遅らせる可能性がありますから使用しません。
病原大腸菌による食中毒の発生は7月から9月の夏場に多く見られますが、それ以外の季節にも発生して年間数千件の発生が報告されています。
食中毒は予防が大切です。とくに汚染された食肉や内臓の生食には注意が必要です。抵抗力のない乳幼児や老人の食事には十分加熱したものを提供することが大切です。
徳島新聞2011年7月27日掲載