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 私たち小児科医にとって診療上、抗生剤はとても大切な薬剤です。細菌感染を治療する上で抗生剤療法はもっとも基本的な治療法です。しかし最近は広い範囲の細菌に効果があって副作用が少ない抗生剤が現れた結果、抗生剤が安易に投与される傾向にあります。
 子どもの発熱の原因の多くを占めるかぜ症候群はウイルス感染症がほとんどですから抗生剤は効きません。小児の中には抵抗力や体力がなくてすぐに二次的な細菌感染症を合併して、重症になる人もありますが、かぜで発熱している子ども全員に抗生剤を投与することは望ましいことではありません。
 
 戦後、抗生剤が使用できるようになって感染症の治療は格段の進歩を遂げました。しかし抗生剤の使用量の増加にともなって抗生剤の効かない耐性菌が増加してきました。抗生剤の進歩と細菌の耐性化が繰り返されてさまざまな問題が見られるようになりました。私たちが使用することのできる抗生剤は無限にある訳ではありません。とくに小児に使用できる抗生剤は成人に比べると種類が少なく、効果や副作用の点でも限られています。抗生剤の進歩は目覚ましくて従来なら入院して注射・点滴をしなければ治療できなかったような多くの細菌感染症が外来で治療可能になっています。

 私たちは抗生剤の効かないウイルス疾患にあまりにも無制限に抗生剤を使用してきました。その結果、現在では外来で見る「とびひ」の原因である黄色ブドウ球菌はほとんどの抗生剤に耐性のメチシリン耐性黄色ブドウ球菌(MRSA)となっています。また呼吸器系や耳鼻科領域の感染症の原因細菌である肺炎球菌も多くの抗生剤に耐性を示すようになっています。私たちの身体には細菌に対する抵抗力があります。鼻やのど、腸管内には常在菌として多くの細菌が存在してさまざまな役割を担っています。これらの常在菌をすべて殺すような薬はかえって害になります。本当に病気を引き起こしている原因細菌のみをねらって殺す薬が必要なのです。本来、必要のない薬を投与することは、本当に治療が必要な重症細菌感症に出会ったときの治療に困ることになります。

2005年5月24日掲載

© TOKUSHIMA MEDICAL ASSOCIATION.