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 今月は貧血についてお話ししています。かなり程度の強い貧血でも徐々に進む場合には症状が現れにくいことが知られています。これに加えて貯蔵鉄や血清鉄の欠乏がある場合でも貧血の症状は現れにくいものです。しかし貧血による酸素不足の状態がなくても、鉄は細胞組織で大切な役割を演じているため、組織鉄が不足した状態では、様々な症状が出るとされます。鉄は組織のエネルギー産生にとって必要なので、不足した状態では活動性の低下や倦怠感、消化器症状として食欲低下や異食症、精神症状として情緒不安定や怒り易すさ、知的発達についても言葉の遅れなどが見られることが知られています。

 新生児期の体内の鉄は、妊娠後期の3ヵ月に胎盤を通して母体から移行すると言われます。この時期に移行する鉄の量は生後3~4ヵ月間の赤血球を作るのに十分な鉄量であるとされます。移行する鉄量はからだの大きさに比例し、早産児や低出生体重児では移行する鉄量が少なく、乳児期早期に不足することになります。からだが大きくなる時や激しい運動をする時に、また重い感染症にかかると体内で鉄の必要量は増加します。これに見合った鉄が食物から供給されなければ、体内の鉄不足が現れます。母乳やミルクだけで育つ乳児期早期には、母体から移行した鉄を利用しているのでさほど鉄不足の心配はありません。しかし生後4ヵ月ころからは、この鉄は使い果たして、この時に正しい離乳食が進まなければ、貧血や鉄欠乏症と言われる状態に陥ってしまいます。さらに体重が少なく生まれた子どもや予定日より早く生まれた子は母体からの移行鉄量が少なく、また生まれてから重い感染症にかかった子は鉄の需要量の増加により体内の鉄は不足しやすい状態になり、成長・発達に影響を及ぼすことになります。

 不足しやすい鉄を補うのに食事に勝るものはありません。母乳の鉄含有量は少ないけれど吸収率は最も良い食品であるとされます。母親の鉄不足は乳児の鉄欠乏症に続きます。鉄の多い食品十分に摂取すれば乳児の貧血予防にも役に立ちます。妊娠中だけでなく授乳中の食事にも十分、注意したいものです。

2003年11月25日掲載

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