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 夏かぜの代表はプール熱とヘルパンギーナです。ヘルパンギーナは急激にみられる高熱とのどの痛みを特徴とします。

 ヘルパンギーナはエンテロウイルスを原因とする疾患です。このウイルスはヘルパンギーナの他にポリオや手足口病をひき起こします。エンテロウイルスは咽頭と腸管の粘膜に感染します。感染経路はのどから分泌されたウイルスや腸管から便中に出たウイルスが経口的に感染します。

 ヘルパンギーナの潜伏期間は2~4日です。症状は突然の発熱で始まります。この時のどの痛みや頭痛、筋肉痛を訴え、食欲の低下やよだれが多くみられ、嘔吐(おうと)をともなうこともあります。

 ヘルパンギーナの特徴はのどに小さな水疱(すいほう)や潰瘍(かいよう)をきたすことです。のどの発疹を確認することで診断がつきます。発疹は数個から十数個におよぶこともあり、これが咽頭痛の原因になります。発熱は1~5日間持続し、口の中の発疹も4~5日で消失します。

 ヘルパンギーナもプール熱と同じように特別有効な治療法はありません。抗生剤は効きません。治療上もっとも大切なのは高熱と食欲低下のために脱水症を起こさないようにすることです。まったく経口摂取ができなければ輸液を行うこともあります。

 夏かぜの代表であるプール熱やヘルパンギーナはウイルス感染症で、特異的な治療法のない疾患です。正確な診断をつければあとは安静と水分・栄養補給を心がけて、自然治癒にまかせるほかありません。あせって解熱剤を使用しても治るまでの期間を短くすることはできません。

 さらにウイルスに効果のない抗生剤を、予防的に内服することは何の利益もありません。むしろ抗生剤の乱用は、抗生剤に対する耐性菌の増加を促し、本当に抗生剤が必要なときに治療が困難になります。どうしても細菌感染が否定できない咽頭炎・扁桃炎のときには溶連菌に効果のあるペニシリン系の抗生剤を使用します。

2007年7月25日掲載

 発熱を特徴とする咽頭(いんとう)炎や扁桃(へんとう)炎の原因の中でもっとも多いのはウイルス感染症で80~90%を占めるといわれます。残りは細菌性の咽頭炎や扁桃炎ですが、その原因細菌はほとんどが連鎖球菌(溶連菌)であるといわれます。

 溶連菌は感染すると多くは咽頭・扁桃および皮膚の化膿(かのう)性の病変を形成します。

 この細菌は直接接触や経口摂取、気道分泌物の飛沫で伝染します。細菌が侵入してから化膿性病変を起こすまでの潜伏期間は上気道で2~5日、皮膚では7~10日とされます。

 溶連菌による咽頭炎・扁桃炎では突然39℃前後の発熱と咽頭痛、頭痛、腹痛で発病します。その後、咽頭は真っ赤になり腫れ上がります。扁桃も赤く腫れて黄色の分泌物が付着します。舌は乳頭が腫れて赤くなりイチゴ舌と呼ばれる状態になります。普通、せきや結膜症状はみられません。

 発熱後12~24時間して首やわき、またの部分などから小さなざらざらした発疹(はっしん)が出現します。この発疹は急速に広がり全身が真っ赤になります。この状態を猩紅熱(しょうこうねつ)と呼びます。発疹出現後7日くらいで発疹部分の皮がむけて白く粉をふいたようになったり、指の先から膜状に皮がむけたりします。

 溶連菌は咽頭炎・扁桃炎だけでなく皮膚の感染症もひき起こします。外傷や熱傷、水痘、湿疹などがあると、そこから侵入した溶連菌によってとびひなどの皮膚感染症を起こすことがあります。

 溶連菌感染症の治療目的は単に咽頭炎や皮膚炎を治すことだけではありません。溶連菌感染の急性期を過ぎて後に発病するリウマチ熱や急性腎炎などの続発症の発生を予防することが大きな目的なのです。

 溶連菌感染症に対する治療薬はペニシリン系の抗生剤で、10日間から2週間の服薬が必要とされます。ペニシリンがすすめられるのは、広範囲に作用する他の抗生剤では薬剤に対する耐性菌の増加が問題になるからです。

2007年7月18日掲載

 夏に多くみられる高熱を特徴とする咽頭(いんとう)炎や扁桃(へんとう)炎を夏かぜと呼びます。夏かぜの中にはプール熱(咽頭結膜熱)やヘルパンギーナがあります。プール熱はアデノウイルスを、ヘルパンギーナはエンテロウィルスを原因とするウイルス疾患です。

 夏季には夏かぜのようなウイルス疾患に混じって溶連菌感染症も流行しますから、発熱を主な症状とした咽頭炎や扁桃炎の患者さんを診た場合にはそれが細菌性なのかウイルス性なのかを区別することが大切です。

 ウイルス感染症による咽頭炎や扁桃炎は多くの場合、2~3日で熱は下がります。したがってほとんどの場合には薬物療法の必要はありません。しかしインフルエンザやアデノウイルス感染症では発熱が3日以上続くことがまれではありません。またアデノウイルスは伝染力が強いことにも注意すべきです。

 アデノウイルス感染症としてはプール熱が代表的ですが、他にも多くの疾患が知られています。流行性角結膜炎や嘔吐(おうと)下痢症、出血性ぼうこう炎などもアデノウイルス感染症です。

 また扁桃炎を主症状とするアデノウイルス感染症は普通、高熱が4~5日持続しますから、細菌性の扁桃炎と区別することが大切です。

 アデノウイルスの検出には迅速診断キットを使用します。血液検査による白血球数や炎症反応のみでは細菌感染との区別はできないためです。

 アデノウイルスによる扁桃炎には抗生剤は効きません。細菌性の扁桃炎との区別をせずに漫然と抗生剤を投与すると効果がないだけでなく、抗生剤による副作用や抗生剤に対する耐性を有する細菌が増えて大きな影響を及ぼすことになります。

 またアデノウイルスは伝染力が強いので保育園などの集団生活では、うがいや手洗いなど予防の徹底につとめることが大切です。

2007年7月11日掲載

 単純性熱性けいれんは放置しても差支えがないことをお話ししてきました。しかし初めてのけいれんの場合に2回目以降の発作が起こるかどうかを予測することはなかなか難しいことです。さらに家族の不安を考えると単純性熱性けいれんに対しても予防処置を行う傾向があります。

 熱性けいれんの予防には、ジアゼパムの座薬を使用するのが一般的です。発熱の初期にこの座薬を使用すると熱が高くなってもけいれん発作を予防できます。高熱が続く場合には8時間後に2回目の座薬を使用します。2回使用することでジアゼパムは3~4日間、有効血中濃度が維持されますからその後のけいれんが予防されるわけです。

 このようなけいれん予防の処置を発熱の度に、熱性けいれんが起こらなくなるまで続けるわけです。熱性けいれんは1歳から3歳ころに多く見られますが、5歳を過ぎるとほとんど見られなくなります。予防的なジアゼパム座薬は数年間使用することになります。

 ただし基礎疾患を有する子どもや慢性的にけいれんを反復するてんかんを持つ子どもに対して熱性けいれんを予防したからと言って基礎疾患やてんかんが治るわけではありません。複合型熱性けいれんは基礎疾患の検索や基礎疾患に対する治療が優先されます。

 単純性熱性けいれんであれば放置しても自然に治るわけですから、基本的にはジアゼパム座薬の使用は必要ないわけです。

 しかし初回の熱性けいれんで単純性熱性けいれんであるかどうかを判断することはとても難しいので、比較的簡単にジアゼパム座薬の投与が行われています。

 けいれん発作が単純性熱性けいれんであると考えられる場合には、発熱時の子どもの状態を十分に見極めて使用することも必要です。

 いつまでジアゼパムの投与を続ける必要があるのか判断するのもとても難しい問題です。

2007年6月27日掲載

 子どものけいれんの中でもっとも多いのは熱性けいれんです。しかし私たち小児科医がけいれん発作を実際に観察する機会はほとんどありません。したがって具体的な発作の状態を知り、熱性けいれんを正確に分類するためには、実際に発作を見ていた人の話を詳しく聞く必要があります。

 熱性けいれんの中でも単純性熱性けいれんは自然に治りますから、放置しても大丈夫です。

 単純性熱性けいれんの診断には、家族にてんかんなどの遺伝的な素因がないこと、分娩(ぶんべん)時の異常や他に脳障害などの原因になる病気がないこと、発作の持続時間20分以下であること、けいれんは左右対称であること、発作終了後に持続する意識障害や片麻痺(まひ)がないこと、明らかな神経症状や知的・運動の発達障害がないこと、発作24時間以内に反復することがないこと、などを確認します。

 これに対して持続時間が長いもの、片側だけにけいれんが見られるもの、24時間以内に繰り返して発生するもの、けいれん後に麻痺などの神経症状を残すものなどは複合型熱性けいれんとして区別されます。

 複合型熱性けいれんの中には神経系に基礎疾患を持つものや発達障害を持つものがあります。これらは熱性けいれんをきっかけに発見されることがあります。

 そこで詳しい検査を必要とするのです。家族の遺伝的な素因や血液・尿などの検査、脳の画像診断、脳波検査などでてんかんや基礎疾患の有無を調べます。

 このような検査をしても100%原因が確定できるとは限りません。そこで複合型熱性けいれんである場合には慎重に経過観察を行う必要があるのです。

 さらに複合型熱性けいれんは予防の対象になります。けいれんを繰り返すことや長く続くけいれん発作による全身組織におよぼす障害を予防する必要があるのです。

2007年6月20日掲載

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