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 子どもはおとなよりもけいれんを起こしやすいといわれます。これは子どもの脳が発達の途中にあって、おとなの脳に比べてけいれんを抑制する力が弱いためです。今月は子どものけいれんについてお話します。

 けいれんは本人の意思とは関係なく、全身の筋肉や一部の筋肉が急激に収縮することを言います。子どものけいれんの中でもっとも多いのは熱性けいれんです。

 熱性けいれんは38度以上の発熱時に見られるけいれん発作です。その発生頻度は報告者によって差がありますが、多いものは7~8%とされます。熱性けいれん以外のけいれんを含めると、何らかの原因でけいれんする子どもが10%くらいあるといわれます。

 熱性けいれんの診断は簡単なように見えますが、はじめてのけいれんの場合には他の神経疾患、とくに神経系の感染症である髄膜炎や脳炎・脳症と区別することが大切です。

 発熱にともなうけいれんが長い時間持続する場合や、けいれんの後に意識障害が長く続く場合には髄膜炎や脳炎を考えます。さらに明らかな麻痺(まひ)などの神経症状が見られる場合には基礎疾患の有無を検査によって明らかにする必要があります。

 しかし受診時にけいれん発作が持続している場合にはできるだけ早くけいれんを停止させることが大切です。治療を進めながら、同時にその原因を考えます。けいれんが長時間持続すると低酸素症などの結果、脳に重篤な後遺症をもたらす可能性があるからです。

 単純性熱性けいれんであればけいれんは短時間で自然に止まり、後に意識障害や麻痺などを残すことはありません。また一生のうちに1回か2回だけ発作が起こるものがほとんどで、自然に起こらなくなります。

 単純性熱性けいれんに対しては何の治療も必要ありません。単純性熱性けいれんとそれ以外の原因によるけいれんを区別することが大切なのです。

2007年6月13日掲載

 日本脳炎ワクチンは2005年5月に厚生労働省から積極的な勧奨を中止する通達が出されました。この通達以後、日本脳炎ワクチン接種対象者のほとんどは接種を見合わせている状態です。

 それまで日本脳炎ワクチンは比較的安全なワクチンとされていました。ただしこのワクチンはマウス脳に日本脳炎ウイルスを感染させて作るものなので、ごくわずかのマウスの脳成分が含まれ、そのために起こる副作用がまったくないとは言えないとされます。

 日本脳炎ワクチンの副作用で問題にされたのは急性散在性脳脊髄(せきずい)炎(ADEM)と言われる疾患です。ADEMは感染症にともなって発生することが多い、良性の神経疾患です。

 しかし日本脳炎ワクチンによるADEMが1991年以降13例発生し、内4例が重症のADEMと認定されています。ワクチン接種の100万人に1人以下の発生頻度です。

 またその前にマウス脳を使わない組織培養による新しい日本脳炎ワクチンが承認申請中であり、新しいワクチンに変更できるはずだったのです。しかし新ワクチンは局所の副反応が問題になり承認が遅れています。そのため新ワクチンに切り替えることができなかったのです。

 日本脳炎はワクチンの普及や蚊に刺される機会の減少、豚が周辺に少なくなったことなどで日本での発生は減少しています。

 しかし現在のまま日本脳炎ワクチンを接種しない世代が増加すると、毎年100万人ずつ日本脳炎ウイルスに対する免疫を持たない子どもたちが増加していきます。したがってこのままワクチンが行われなかった場合、西日本を中心とした日本脳炎ウイルス汚染地区の子どもたちの中から脳炎が発生する危険性が毎年増加してきます。

 現在、日本脳炎ワクチンは積極的な勧奨を差し控えられている状態ですが、定期接種から除かれたわけではありません。ワクチンの有用性と副作用とについて十分な説明が行われて、納得が得られる場合にはワクチンを受けることが可能なのです。とくに接種対象年齢を過ぎる人などは十分考える必要があります。

2007年5月22日掲載

 日本脳炎はウイルスを持った蚊に刺されても全員が発病するわけではありません。日本脳炎の発病率は100人から1,000人に1人くらいです。日本脳炎ウイルスに感染しても無症状や軽い夏かぜ症状のみで終わることが多く、発病しても無菌性髄膜炎で終わる場合もあります。

 日本脳炎の潜伏期間は1~2週間です。日本脳炎ウイルスを持った蚊に刺されて1~2週間すると発病するのです。

 最初の症状は急激な発熱と激しい頭痛ですが、小児では腹痛や下痢が初発症状になることもあります。発病後2~4日間は頭痛、高熱、悪寒、食欲低下、吐き気、嘔吐(おうと)、うとうとした状態が続きます。

 さらに進行すると首の後ろが硬くなるなどの髄膜刺激症状と呼ばれる症状が出てきます。また意識障害や異常な反射が見られ、手足のまひやけいれんが出現します。意識障害が進行してこん睡状態に陥ると1週間程度で死亡することがあります。

 脳炎を発病した場合の死亡率はこれまで20~40%程度ときわめて高く、重症の急性脳炎症状を呈します。たとえ死を免れた場合でも45~70%は知能障害や運動障害などの後遺症を残します。とくに小児では重度の障害を残すことが多いと言われます。

 最近は脳炎に対する治療法が進歩したために死亡率は10~15%程度に減少していますが、反対に後遺症を残す割合は増加していると言われます。

 日本脳炎ウイルスにかかって急性脳炎を発病すると脳神経細胞に重篤な障害が残ります。最近日本では子どもの急性脳炎を見ても、日本脳炎を考えることは一般的ではありません。しかし治療を開始する時点で必ず日本脳炎を考えておく必要があります。

 日本脳炎患者が急速に減少してから、ほとんどの患者は成人でした。しかし昨年9月には熊本で3歳の子どもの日本脳炎が報告されています。

 日本脳炎に特異的に効く薬剤はありません。予防接種以外に子どもたちを日本脳炎から守る手段はないのです。1日も早く安全なワクチンの再開が望まれます。

2007年5月15日掲載

 日本脳炎は現在日本ではあまり見かけなくなりました。しかし2005年5月末に厚生労働省が日本脳炎ワクチン接種の積極的勧奨を中止することを決めてからは接種対象の子どもたちはほとんど日本脳炎ワクチンを受けていません。

 その結果、日本脳炎に対する免疫を持つ子どもの割合がだんだん少なくなっていると考えられます。そのために最近では子どもの日本脳炎がいつ発生してもおかしくない状態になっています。今月は日本脳炎についてお話します。

 日本脳炎は蚊で媒介されるウイルス性の神経疾患です。中でもコガタアカイエカがもっとも重要な蚊であるとされます。

 豚は日本脳炎ウイルスを持った蚊に血を吸われるときに感染してウイルス血症を起こします。これが日本脳炎ウイルスの供給源になります。このウイルスは、蚊と豚の間で感染を繰り返すことで自然界の中で生息しているのです。

 このウイルスを持った蚊が人の血を吸うと人に感染して、その一部が日本脳炎を発病するのです。日本でコガタアカイエカが大量に発生するのは6~9月ですから、この時期に多くの日本脳炎患者が発生するのです。

 日本では1960年代までは年間数千人の患者が発生していました。1992年以降は年間10名未満の発生にとどまっています。

 しかし日本脳炎ウイルスは日本、中国、韓国など東アジアからベトナム、タイ、フィリピン、インドネシアなど東南アジア、インド、パキスタンの一部までの西アジアからオーストラリアの一部まで生息することが確認されています。これらの地域では年間2万人をこえる脳炎患者が発生しているものと推測されています。

 日本で日本脳炎の発生が急激に減少した理由には予防接種の普及、コガタアカイエカが生息する水田の減少、都市部で豚の飼育が減ったことなどが挙げられます。しかし今後、日本脳炎ワクチン接種者が居なくなれば、ウイルスに対する感受性者が増加することによって日本脳炎患者の発生が増加する可能性があり注意が必要です。

2007年5月8日掲載

 今回は母乳育児に関するさまざまな障害についてお話します。

 「母乳が足りないかも知れないからミルクを足しなさい」、「保育所に預けるために哺乳びんで飲む練習をしなさい」、「薬を飲むなら母乳を止めなさい」などの指導が行われることがあります。これらの指導は母乳育児の大きな障害になります。

 母乳育児を希望するお母さんにとって「母乳が不足している」とか「母乳を中止しなさい」と言われることは精神的に大きな苦痛を受けることになります。最初に確認しておかなければならないことは赤ちゃんに基礎疾患がないこと、現在の母乳育児が赤ちゃんにとって十分満足するものであることです。

 本当に母乳が足りていれば赤ちゃんは満足しており生き生きし、筋緊張がよく、皮膚色も良好です。尿も便も1日に何回も出ます。1日平均18~30グラムの体重増加が見られます。

 母乳が本当に足りていなければミルクを足す必要があります。

 本当は母乳が足りているのに不足かも知れないと思う母乳不足感と本当の母乳不足を区別することが大切です。

 母乳が足りているのにミルクを足すと、足したミルクの量だけ母乳の分泌量は減少します。また哺乳びんの乳首を吸うことで母乳乳首に対する吸いつきが悪くなります。このことを乳首の混乱と言います。

 最後に母乳育児中の薬剤の服用ですが、世界保健機関(WHO)と国連児童基金(ユニセフ)では授乳を完全に中止すべき薬剤は放射性同位元素と抗腫瘍(しゅよう)剤・代謝拮抗(きっこう)剤のみであるとしています。私たちが授乳中の女性に薬剤を投与する場合には「少しの薬剤が含まれる母乳を飲むことによっておこる不利益」と「母乳を飲めないことによる不利益」をはかりにかけて判断します。実際には母乳中に含まれる薬剤の量はごくわずかですから、母乳を中止することはめったにないわけです。

 母乳育児をすすめるには正しい知識と努力が必要です。したがって母子を取り巻く人たちの協力と支援がなければ母乳育児を続けることはできません。

2007年4月24日掲載

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