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 結核は以前、国民病として恐れられる病気でしたが、最近では忘れられようとしています。これは抗結核薬による治療の進歩のほか、経済的な繁栄による栄養状態の改善や衛生環境の整備、さらに集団に対するツベルクリン反応検査やBCGなどによって患者や保菌者の発見が進み、治療や予防が行われた結果、結核患者は急速に減少してきたためです。しかし戦後順調に減少してきた結核罹患率の減少速度が、最近20年くらい鈍ってきて、さらに少し増加傾向にあるといわれます。またアメリカではエイズの蔓延による結核の増加が問題になっています。さらに日本の結核罹患率は先進国の倍以上高く、時に集団発生することもあります。そこで結核に対する認識を新たにする必要があります。

 現在の日本で結核の罹患率は人口10万人当たり25人くらいで、15歳未満の小児結核罹患率はこの10分の1くらいとされます。結核の発病者はほとんどが以前に結核にかかったことがある高齢者です。高齢者には糖尿病や腎不全など基礎疾患が多く、副腎皮質ホルモンや抗がん剤治療を受けていて免疫力が低下していることが多いのです。結核患者は発病すると咳や痰によって結核菌を周囲に散布しますから感染源になります。ふつう小児は結核菌に感染する機会が少ないために小児結核の患者数はそれほど多くありません。しかし乳幼児は免疫力が低く、感染すれば発病する危険性は大きいのです。もし家族の中に結核菌を排出している人が居ると、繰り返して結核菌を吸い込んで感染を受け、発病する危険性が高くなります。

 結核菌は飛沫感染しますが、その菌数が少なければ免疫の力で排除されます。感染が成立すれば肺門のリンパ節から肺胞に病変が起こります。感染後1年くらいの結核は軽い肺炎、リンパ節炎や胸膜炎などで自然に治ることがほとんどです。しかし乳幼児では抵抗力がないため全身散布型の重症結核である粟粒結核や結核性髄膜炎に進むことがあるので注意が必要です。家族内に発病した結核患者が居る場合には家族全員の結核検診が必要なことは言うまでもありません。

2005年3月15日掲載

 今年の4月から結核予防法が改正されてBCG接種の仕方が変わります。変更のひとつはBCGの接種をツベルクリン反応検査なしに行うことになったことです。従来はツベルクリン反応(ツ反)陰性者にBCGを行っていたのですが、検査なしに直接接種するようになったのです。もうひとつは接種時期の変更です。これまで生後3ヵ月から4歳まで(できるだけ1歳まで)に接種することとされていました。これが生後なるべく早く、6ヵ月までに接種することになったのです。生後6ヵ月を1日でも過ぎれば任意接種になります。この法律は今年4月1日から施行され、今までにBCGを済ませていない人も対象になりますから注意が必要です。

 BCGは結核に対する予防接種です。ツ反は結核にかかったことがあるかどうかを調べる検査です。すでに平成15年から小中学校でのツ反とBCG接種が中止になっています。今回の改定は乳幼児の結核予防に対する考え方が変わってきたためです。社会に結核患者が大勢居たときにはツ反をすべての乳幼児に行って、結核にかかっている子どもを発見することが重要でしたが、最近では毎年約120万人の乳幼児にツ反を行っても発見される結核患者の数は3名程度と言われます。反対にツ反が偽陽性であるために早期にBCGを接種する機会を逃がしてします子どもが43,000人も居て、この中から結核を発病するおそれのある者が22名くらい居るとされます。乳幼児の結核は発病すれば全身におよぶ重症の結核になることが多く、またそのほとんどがBCGを接種していないとされます。したがって発見される結核よりも、誤ったツ反の結果からBCGを受ける機会を奪われる子どものほうが多くなるということです。そこでツ反をせずに生後なるべく早い時期にBCG接種を行うことになったのです。地理的条件、交通事情や災害の発生などやむをえない場合には接種時期は1歳まで延長されますが、個人の都合で6ヵ月までに接種できなかった時には任意接種となり、接種にかかる費用や副反応の責任は個人で負担することになります。

2005年3月8日掲載

 今月は単純ヘルペス感染症についてお話ししてきましたが、中でもヘルペス脳炎は非常に重篤な疾患です。ヘルペス脳炎はわが国では年間に100~200例くらい発生していると言われます。発病年齢によって症状には大きな違いがあるとされますが、一般に直前まで元気だった子どもが急に発病し、生命の危険性を伴い、治っても神経学的な後遺症を残す可能性の高い疾患であるとされます。

 子どもにとって高熱にともなう熱性けいれんは珍しい症状ではありません。しかし熱性けいれんの多くは一度発作が止まると意識を回復してほとんどの場合は同じ日にけいれんを繰り返すことはありません。けいれん発作が治療に抵抗して持続する時や一度止まっても何度も繰り返し発生する時、けいれんが止まっても意識障害が続く時などには脳炎・脳症を考えておかなければなりません。脳炎は中枢神経感染症で適切な治療を行わなければ死亡する確率が高く、治っても神経学的後遺症を残すことが多い疾患です。中でもヘルペス脳炎は治療の開始時期がその経過に大きな影響を及ぼすことが知られており早期発見、早期治療が大切です。

 ヘルペス脳炎と他の原因による脳炎を区別できるような特別な症状はありませんが、感染症として高熱、髄膜刺激症状として頭痛や嘔吐、脳症状として意識障害やけいれん、侵された部位による脳症状が見られます。歯肉口内炎は10%くらいに見られるだけです。ヘルペスウイルスは脳の中でも側頭葉や前頭葉を好んで侵すのでCTやMRIなど画像検査も診断のためには重要です。ヘルペス脳炎を疑った場合には髄液中のウイルス検査を行った後に抗ウイルス薬を投与します。

 単純ヘルペスは珍しいウイルスではありません。乳児の初感染では歯肉口内炎が多く見られますが、その90%は不顕性感染であるとされ、抗体保有率は3歳児で20%、成人でも50%程度であるとされます。しかし新生児ヘルペスのように母子感染の重要な原因ウイルスであるとともに、ヘルペス脳炎など致命的でありまた神経系後遺症が残る可能性が高い重要なウイルスです。

2005年2月22日掲載

 単純ヘルペスウイルスは一度感染すると神経節細胞にDNAの形で潜んで、宿主に疲労や外傷、免疫状態の低下などのストレスが加わったときに再発します。疲れたときに口周囲のヘルペスが出やすい人がありますがこのときには初感染のときのような強い症状を示すことはありません。しかしそれまでにヘルペスの感染を受けたことがない場合には、大変強い症状を示すことが普通です。とくに新生児のヘルペス感染症は命に関わるような症状が一般的なので油断できません。

 新生児ヘルペスでは全身の臓器にウイルスが及ぶ全身型、中枢神経に感染して脳炎を起こす中枢神経型、病変が皮膚、眼、口腔に限局する表在型の3型に分類されます。問題になるのは全身型と中枢神経型です。感染経路は主として分娩時の産道感染です。母親の性器ヘルペスから新生児が分娩時にウイルスに感染して生まれてくると新生児ヘルペスにかかります。もしこの時、母親のヘルペスが初感染であると産道感染の危険性は30~50%以上あるとされ、再発性の場合には数%と言われます。これは初感染ではウイルス量が多いこと、児への移行抗体も期待できないためとされます。

 全身型では血液を介してウイルスが全身に配布されることによって肝臓、肺、副腎などの臓器を傷害して症状が出現します。生後5日ころから発熱、哺乳力低下、活動性の低下や無呼吸などの症状が出現しますがヘルペス感染症に特異的な症状はありません。水泡形成が明らかでない場合もあります。その後、急激な肝機能障害があらわれ出血傾向など様々な合併症が出現します。

 中枢神経型では全身型より発病が遅く、活動性の低下やけいれんなどで発病します。全身へのウイルスの散布はありませんが神経細胞が侵されることによって神経学的な後遺症を残すことが多いとされます。

 新生児ヘルペスは母親のヘルペスからの母子感染ですから、母親が無症状であっても新生児ヘルペスを予防するための十分な処置が必要となります。

2005年2月15日掲載

 一般にヘルペスは口の周囲に小さな水泡が見られる疾患ですが、これは単純ヘルペスです。ヘルペスウイルスには単純ヘルペスのほかに帯状疱疹(水疱)ウイルス、サイトメガロウイルス、EBウイルス、突発性発疹ウイルスが知られています。それぞれ乳幼児期にかかることが多い疾患で、臨床的には重要なウイルスです。今月はよく見られる単純ヘルペスウイルス感染症の症状や、重篤な疾患である新生児ヘルペスやヘルペス脳炎などについてお話ししたいと思います。

 単純ヘルペス感染症は口周囲や外陰部に小水疱を形成するウイルス疾患で1型と2型の2種類が知られています。成人では1型は口周囲に2型は陰部ヘルペスとして反復して出現します。しかし初感染の新生児や乳幼児にとっては重い症状を引き起こすことがあります。とくに新生児が分娩中に母親から感染して起こる新生児ヘルペスは死に至ることもある怖い病気です。またヘルペス脳炎も死亡率が高い病気でたとえ治っても後遺症を残すことが多い疾患です。

 普通、乳幼児が単純ヘルペスに初めてかかると口内歯肉炎を起こします。突然の高熱で発病し、1~2日すると口内炎と歯肉が腫れて真っ赤になります。口唇の周囲に小水疱性の発疹も見られます。これがヘルペス性口内歯肉炎です。発熱や口内炎症状は通常、7~10日くらいの経過で自然に治りますが、高熱と口内炎や歯肉炎のために食物の摂取が出来なくなりますから、体力の消耗が激しく脱水症を起こし、時には輸液や入院が必要となることもあります。

 皮膚や口粘膜から侵入したヘルペスウイルスは侵入局所で増殖した後、神経を伝って神経節細胞に移行し、神経節細胞の細胞質内にDNAの形で潜伏感染します。疲労や外傷、免疫状態の低下など宿主のストレスによって、潜伏したヘルペスウイルスは再び活性化し、神経を下降して皮膚粘膜で水疱を形成します。ヘルペスは何度でもかかる病気ですが、再発時には局所の水疱が主症状で初感染時のような重い症状を示すことはありません。

2005年2月8日掲載

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