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 インフルエンザは毎年12月から翌年の3月くらいまで流行するウイルス感染症の代表的な疾患のひとつです。伝染力が強く一度発生すると大きな流行が見られることと症状の強さや合併症が多いことなどから体力や抵抗力のない小児や慢性疾患を持っていて体力、免疫力の低下した老人にとって恐ろしい病気であると考えられます。今月は冬の代表的な感染症であるインフルエンザについてお話ししたいと思います。

 現在、よく見られるインフルエンザはA型とB型に分類され、A型はさらにソ連型と香港型に分かれます。毎年流行するウイルスの型は変わりますが、最近数年間はA型もB型も流行しています。多くの場合、初めにA型が流行してその後にB型が見られます。昨年は主としてA香港型が流行しましたが、ここ数年の中では比較的小さな流行に留まりました。

 同じ型でもウイルスは毎年少しずつ変化しておりますから、ワクチンもそれに合わせて変更されます。今年は3年ぶりにワクチン株の変更がなされました。またインフルエンザはこれまでに数十年毎にまったく異なるウイルスが出現して、今までに経験したことがないような新型のインフルエンザが現れています。昨年話題になったトリインフルエンザの出現は新しいインフルエンザの出現を予想させるものです。しかし鳥から人へ、人から人への伝染力はまだそれほど明らかなものではなく、病気の鳥を完全に隔離したことによって人社会での大きな流行は見られませんでした。もし今後トリインフルエンザウイルスが人から人に伝染する力を獲得すれば大きな流行を来す新型インフルエンザになるかもしれません。

 今後は新型インフルエンザのほかにもSARS(重症急性呼吸器症候群)のようなまだ完全に治療法の確立されていない疾患が発生するかもしれません。同じような症状で始まる今のインフルエンザに対してできるだけ多くの人がワクチンを接種することによってその流行をできるだけ小さくしておくことが大切です。

2004年12月14日掲載

 授乳中の女性にとって自分が病気の時、薬物療法が乳児に影響するかどうかは大変気になることです。母乳栄養をしている間は必要な治療を受けられない、母乳を続けたいが服用した薬剤が母乳中へ移行するのが心配、などです。また授乳中の服薬で授乳を中止すべきかどうかも問題になります。多くの薬剤添付文書には授乳中の薬剤服用について、「薬剤服用中は母乳を中止すること」とか「授乳をするなら薬剤を投与しないこと」とかの記載があります。その結果、母親に必要な治療ができずに病気を長引かせたとか、薬剤服用中に母乳を止めている間に母乳が出なくなったなどの不都合が生じます。

 実際に授乳中の女性が服用してはいけない薬は抗がん剤、放射性物質、一部の向精神薬などだけで一般の感冒治療薬や胃腸薬など多くの薬は服用しても乳児に影響はないとされます。授乳を禁止すべき薬剤で治療しなければならない疾患とは、もともと授乳や育児をするのが困難なものばかりです。

 母乳は血液の成分から作られますから、血液に含まれる薬剤の多くは母乳中に分泌されます。しかし母乳中に含まれる薬物の量は服用した薬物の種類や量によって変わります。薬剤の分子量が小さいとか脂溶性であると母乳へ移行しやすく、除放剤などは長時間作用していますから多量に移行する可能性があります。薬剤の血中濃度が高い時に授乳すれば母乳中への移行も増加します。これらのことから長時間作用する薬剤の使用は控える、薬剤服用は授乳の直後にするなどに気をつければ母乳中の薬剤濃度を低下させることができます。母乳中に含まれる薬剤量が乳児の体内で薬理作用を呈する程の濃度まで高くなることはほとんどありません。本当に母親の疾患治療に必要な薬剤のみを短期間使用するのに不都合はありません。治療したいのに必要な治療が受けられないといったストレスでも母乳分泌は悪くなります。薬剤以外のアルコールや喫煙によるニコチン、嗜好品に含まれるカフェインなども乳児に影響することも考えたいものです。

2004年11月23日掲載

 すべての子どもにとって母乳が最も優れた栄養法であることは誰もが認めるところですが、実際に完全母乳栄養を行っている人はそれほど多くありません。母乳が大切なことは理解できても、赤ちゃんの体重が増えないとか母乳を飲んでもすぐに欲しがるので不足しているとの理由でミルクを足している場合が多いのです。

 母乳の利点は栄養学的にすぐれていること、種々の感染防御因子を含んでいること、アレルギーを起こしにくいこと、出産後の母体の回復を早め、母乳育児を通じて母子相互作用の確立に良い影響を及ぼすことなどが挙げられます。

 母乳には子どもの成長に必要な栄養素がバランス良く含まれ、消化吸収が良く、抵抗力の点でもすぐれています。分娩直後に分泌される初乳は感染症に対する防御因子をたくさん含んでいます。とくに免疫グロブリンAは細菌やウィルスに対する抗体を含んでおり腸管での大腸菌やサルモネラ菌の感染予防に役立っています。その他、リンパ救やマクロファージといった細胞成分、ラクトフェリンやリゾチーム、ビフィズス因子などの免疫物質が含まれていて新生児期や乳児期早期の免疫を司っています。その結果、母乳栄養児では人工乳で育てる場合に比べて重症の下痢や肺炎、中耳炎、細菌性髄膜炎、尿路感染症などにかかる率が低いとされます。さらにアトピー性皮膚炎や乳児突然死症候群などさまざまな疾患でも母乳栄養児の方が人工乳で育てられた子どもよりも発生頻度が低いとされます。

 完全母乳育児を行うには小児科医をはじめ助産師、母乳を取り巻く人達の指導や協力が欠かせません。中でも母乳の専門家は助産師です。小児科医は子どもに異常がないか、体重増加から母乳不足がないかを判断します。小児科医が母親の乳房を直接診察することはなかなかできません。母乳不足を感じた時には、自分だけで判断せずに必ず子どもの専門家である小児科医と母乳のプロである助産師に相談するようにしましょう。

2004年11月16日掲載

 出産直後の母親の大部分が母乳育児を希望するにもかかわらず、1ヵ月時点で実際に母乳育児を行っている人の割合は約45%しかないと言われます。これにはさまざまな理由がありますが、母乳に対する知識の少なさが関与しているものと思われますので、正しい母乳に対する知識をもって分娩前から準備しておくことが必要です。今月は母乳について考えてみました。

 母乳育児成功の最大のチャンスは出生直後にあります。この時期の新生児は分娩にともなう強いストレスによって体内のカテコールアミンが上昇し意識中枢が刺激され覚醒状態にあります。従って、出生直後30分以内に乳首を吸わせることができるとその後の母親育児がスムーズに行われるというわけです。これは母子相互作用の中で、母親が新生児に対して愛着を抱くことに大変役に立つからです。このことがその後の母乳分泌にも良い影響をおよぼすと考えられます。しかしこのような覚醒状態は30分から1時間しか持続せず、急速に睡眠に移行します。しがってこの時期に母親の児に対する愛着をスムーズに引き出せるかどうかは、分娩を取り扱う産科スタッフの考え方に左右されるのです。新生児期に安易に哺乳びんを使用することや母乳以外のシロップや人工乳を与えると母乳分泌の妨げになることがあります。健康な新生児に対しては早期に頻回の授乳を行うことで、脱水症などの不都合を起こすことが避けられると言われます。しかし体重の減少が激しいとか黄疸が強いからという理由でミルクを与えると新生児は乳首の混乱を来すと言われます。また母親は乳首を吸われることで母乳分泌ホルモンであるプロラクチンの分泌が促され母乳の分泌が良くなります。従って乳首を吸われることがなければ母親の分泌は悪くなります。

 母乳育児を成功させるためには、出産後1ヵ月くらいは母子ともに授乳の練習時間と考え、新生児に大きな異常がない限りリラックスして育児が行われる環境づくりを心がけることが大切です。

2004年11月9日掲載

 食欲は子どもの健康状態をはかるバロメーターです。食欲があって栄養状態が良ければ食事が適切にできていて家庭や子どもを取り巻く環境が適正であることが分かります。高熱があっても食欲が保たれている時には全身状態は比較的よく保たれていて安心です。しかし、たいして症状が見られないのに食欲がない場合や栄養状態が悪い時には重い病気や慢性疾患が隠れていることがあり、油断できません。食欲や機嫌の良し悪しは全身状態を判断する目安になります。

 最近、わが国では社会や経済状態の安定から開発途上国に見られるような食料不足による栄養失調症を見かけることはほとんどありません。しかしさまざまな全身疾患を治療しているうちに、食物の摂取制限による栄養不足や消化吸収能力の低下による二次的な栄養失調症が見られることがあります。慢性の感染症や先天代謝異常症、先天奇形、低出生体重児などに栄養障害の見られることがあります。さらに最近では精神心理的、社会的な原因による栄養障害が問題視されています。

 栄養障害の中で食事性のものや感染症、先天異常など体質や素質によるものは栄養摂取量や各栄養素のバランスが悪いために起こる問題です。蛋白質とかビタミン類、ミネナル類の不足などによる障害があげられます。

 養護の不適切による栄養障害としては、衛生上の問題、うつ熱など環境の劣悪、寒冷、渇きの原因が水分供給不足や濃厚すぎる栄養によるもの、母体からのアルコールやニコチンなどの薬物や毒物、誤った医療行為によるもの、精神的・心理的な飢餓状態によるものなどがあげられます。中でも虐待による栄養障害は栄養摂取の量的・質的な問題ばかりでなく精神・心理的なことが問題となります。育児中の母親の不適切な養育態度には早期に適切な介入をすることによって虐待に至らないような配慮が望まれます。

 乳児期早期の栄養障害はその後の身体的な発育だけでなく精神・神経の発達にも影響が及ぶと考えられています。環境を整え正しい栄養に対する知識をもって子どもの適切な栄養を進めることが大切です。

2004年10月26日掲載

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