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 乳幼児の下痢はその持続によって急性下痢と慢性下痢に分けられます。普通、2~3週間以上続く下痢は慢性下痢と呼ばれ、それ以下の期間で改善するものは急性下痢とされます。さらに急性下痢は原因から、感染性下痢と非感染症下痢に分けられます。乳幼児に最も多く見られるのはウィルス性胃腸炎ですが、時には細菌性腸炎が発生して重症化することもありますから注意が必要です。非感染性下痢の中には中耳炎や尿路感染症などの腸管外感染症による下痢や、抗生剤投与による下痢、冷たい食品の摂りすぎや食物の食べ過ぎによるもの、冷たい場所に長時間居るなどの環境によるもの、食物アレルギーによる下痢、栄養状態の悪い子などに見られる下痢などが含まれます。これらの非感染症下痢に対しては元疾患の治療に加えて適切な食事を与えて栄養状態を改善することや環境を適正化することが必要となります。

 ウィルス性胃腸炎による下痢は普通、適切な治療を行えば数日で改善します。そこで大切なのは食事療法です。以前は激しい下痢がある場合には腸管を休ませるために絶食することが重要であるとされましたが、下痢があっても水分や電解質、ブドウ糖などは腸管から吸収されることが判ってきました。嘔吐が激しい時には固形物を与えることは出来ませんが、嘔吐が止まれば、早期に食事を投与することが大切です。いたずらに絶食期間を長くするとかえって栄養状態が悪くなり回復が遅れます。母乳栄養児の場合には母乳を与えます。急性下痢であれば人工乳でもそのまま与えます。離乳食であればそのまま与えても差し支えはありません。幼児期以上であれば、消化の良い米飯やパン、うどんなどを主として与えます。軟らかく煮た野菜や豆腐、卵、脂肪の少ないヒレ肉、トリ肉や白身魚などを使い、脂肪の多い豚肉やベーコン、ソーセージや野菜でも繊維質の多いものは控えます。果物の中でもリンゴやバナナは消化が良く、ミカンやイチゴは消化の悪い果物です。

 下痢や嘔吐の後には食欲が低下してなかなか思うような食事が摂れないものです。普段の食生活の中で何でも食べる習慣をつけておくことも大切なことです。

2004年5月18日掲載

 下痢とは便の固形成分の割合が低下し、水分の割合が増加した状態で、排便の回数、量の増加を伴い、水分および電解質の喪失が見られるものを言います。従って便の性状が下痢であっても水分や電解質の喪失を来たさないものは下痢ではありません。とくに新生児や乳児の中で母乳栄養児の便は軟らかく下痢状ですが、機嫌も良く食欲もあり体重増加も順調であれば、これは母乳便であり病気ではありません。これに対して機嫌が悪く食欲がないとか、体重増加不良などが見られる場合には病的なものと考えなければなりません。

 便中の水分が80%以上になると軟便ないし泥状便、90%以上になると水様便となります。便中の水分増加が起こって下痢になるのは、腸液の分泌が増加したり、腸管による水分の吸収障害が起こったり、また腸管の動きが亢進することで便が消化管を通過する時間が短縮することによります。これらの病態は腸粘膜の炎症や、細菌毒素など化学物質の刺激、消化吸収障害、アレルギー、心因などが原因となって発生すると言われます。

 栄養状態や衛生状態の悪い地域では子ども達が下痢のために命を落とすことは珍しいことではありません。下痢にともなう脱水症でも重症なものは致命的となります。最近でも全世界では下痢にともなう脱水症で毎年、200万人くらいの子どもたちが命を落としていると言われています。日本でも今から40~50年前までは下痢にともなう脱水症で生命を失う子どもが大勢いましたが、経済的に豊かになり栄養状態が良くなり、環境や衛生状態が改善することによって、下痢から脱水症を来たす子どもたちが少なくなってきました。また少子化の影響で、子どもの世話がこまめに行われるようになり、重症の脱水症が起こる前に気付かれるようになりました。また嘔吐や下痢がある場合には、水分や電解質を十分に補給し、脱水症を予防することが大切であることが情報として多くの人に理解されたのだと考えられます。今月は下痢や脱水症について考えてみましょう。

2004年5月11日掲載

 乳幼児の嘔吐で最も多い原因は嘔吐下痢症によるものです。典型的な嘔吐下痢症は最初に急性の嘔吐が大量、頻回に見られ、これに発熱や下痢が続きます。多くの場合には流行や患者さんとの接触があり、診断に苦しむことはありません。しかし嘔吐下痢症の流行中に他の原因で嘔吐している患者さんに出会うと、他の原因疾患を見落としてしまうことがあります。とくに緊急処置が必要な腸重積やヘルニア嵌頓(かんとん)、虫垂炎などの外科的疾患や髄膜炎、頭蓋内出血など中枢神経疾患を見逃すと大変です。また薬物や毒物の可能性を念頭に置くことも必要です。重篤な疾患でも嘔吐が頻回で大量に吐くとは限りません。嘔吐を止めることよりも原因を特定することが最も大切なのです。嘔吐は体内に侵入した異物や毒物を体外に排出することが本来の役割です。従って、いたずらに嘔吐を止めることは異物や毒物を体外へ排出することを遅らせることになります。また嘔吐を抑えることで原因疾患の発見を遅らせるようなことがあってはなりません。さらに嘔吐を抑える薬の中には垂体外路症状と言う不随意運動などを来すものもあり安易な使用は控えるようにしたいものです。

 重篤な原因疾患による嘔吐が否定された場合には嘔吐に対する処置が行われます。この時、嘔吐下痢症が原因として最も疑われる場合には、嘔吐は1日くらいで止まることを両親に説明して安心させる必要があります。嘔吐は子どもにとってつらい症状であるばかりでなく、両親にとっても不安で眠れなくなる症状だからです。経口摂取が出来ないときには無理に食事を摂らせる必要はありません。飲みやすいお茶やイオン飲料で咽喉を湿らせる程度に少量の水分を頻回に与えます。固形物や乳製品などは嘔吐を誘発することがあるので中止します。この間に高熱や激しい下痢を伴い脱水症が疑われる場合には輸液を考えます。嘔吐してもその後で遊んでいるとか食欲がある場合には心配することはないと思われますが、不機嫌がはなはだしい場合や顔色不良が続く場合には小児科医を受診する必要があります。

2004年4月27日掲載

 子どもの嘔吐の原因は年齢によって大きく異なることが知られています。正常の新生児でもミルクをよく吐きますが、まれに全身疾患や外科的疾患など重篤な原因が隠れていることがあり注意を必要とします。

 新生児の嘔吐の大部分はほとんどが生理的なものです。新生児では食道胃移行部の括約筋の機能が未熟で、また胃の蠕動(ぜんどう)運動が乏しいこと、体位によって胃内容の通過時間が異なることなどから嘔吐が起こりやすいと考えられます。分娩に伴って嚥下した羊水や血液が刺激になって嘔吐することもあります。嘔吐の内容は羊水や粘液が多く、ときに嚥下した血液が見られることもあります。このような新生児の嘔吐を初期嘔吐と呼びます。この嘔吐は持続も短く治療が必要となることはほとんどありません。

 しかし新生児嘔吐の中にはまれに消化管の閉塞である食道閉鎖や十二指腸閉鎖、腸回転異常など消化管の器質的な異常が隠れていることがあります。消化管の閉塞は早期に診断をつけて外科的処理をする必要があります。他にも頭蓋内出血や脳浮腫、核黄疸など中枢神経疾患や敗血症、髄膜炎、尿路感染症などの重症感染症、ガラクトース血症や副腎性器症候群など先天代謝異常、ミルクアレルギーによる嘔吐なども早期の処置が必要な疾患です。

 新生児の嘔吐が重篤な疾患によるものかどうかは、嘔吐の頻度、吐物の内容や量、吐き方など状態の他に腹部膨満や呼吸障害、発熱やけいれんなどの合併症の有無、遷延分娩や仮死の有無など分娩時の状況の確認が必要とされます。これらの異常がある場合には血液・生化学検査やレントゲン・エコー検査など精密検査を進めることになります。

 治療を急ぐ重篤な外科疾患や先天代謝異常などが否定されれば、新生児嘔吐に対する処置は、胃洗浄で羊水や血液など嘔吐の原因となる物質を除去し、母乳栄養を積極的に進めることで胎便の排出を図ることになります。輸液などの処置を必要とすることはほとんどありませんから分娩直後の母親の不安を取り除いて母乳栄養を確立することが大切です。

2004年4月22日掲載

 小児科外来の中で嘔吐を訴える患者さんは少なくありません。救急外来を受診する小児の中で嘔吐を主訴とするものが20~30%あると言われます。嘔吐は消化器症状のひとつですがその原因となる病気は消化器疾患ばかりではありません。子どもは簡単に嘔吐しますが、軽い嘔吐の中にも重篤な疾患が隠れていることがあり注意が必要です。今月は子どもに多い嘔吐について考えてみました。

 嘔吐は口から胃内容物が吐き出された状態で、嘔吐をする時に冷汗、顔色不良、動悸、めまいや頭痛などを伴うことがあります。嘔吐に下痢や発熱を伴う感染性胃腸炎の時には脱水症を起こすことがありますので全身状態を把握することが大切です。嘔吐が起こるのは、嘔吐中枢が刺激されるためです。嘔吐中枢は脳幹部、延髄の外側網様体にあり、心臓・肺・胃腸など内臓からの刺激や化学物質・薬物の刺激、心理的・精神的な刺激、脳圧亢進などの直接的な刺激を受けて嘔吐を起こします。嘔吐中枢の周辺には唾液分泌中枢・血管運動中枢・呼吸中枢・前庭神経核などがあり、嘔吐中枢が刺激されるとこれらの中枢も同時に刺激されて発汗、顔色不良、唾液分泌、動悸、めまいや頭痛などの症状が表れます。

 嘔吐中枢を刺激するものの中でも脳圧亢進によるものには脳炎・髄膜炎、脳腫瘍、頭蓋内出血など重篤な神経疾患があります。薬物や化学物質が嘔吐を起こすのは、嘔吐中枢の近くにある化学受容体引金帯と言われる部分が体内を循環する薬物や化学物質を感知し嘔吐中枢を刺激し毒物を排除するために嘔吐を引き起こすのだとされます。精神的、心理的な刺激は大脳皮質からの刺激で、乗り物酔いなどは前庭神経からの刺激が嘔吐中枢を刺激することで嘔吐を起こすとされます。

 嘔吐は消化器疾患以外の呼吸器疾患や中枢神経疾患、代謝性・内分泌性疾患、頭部や腹部の外傷などでも起こることがあります。また嘔吐を来たす疾患の原因は年齢によってさまざまで診断を進めていく上で注意が必要です。

2004年4月13日掲載

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