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 今月は子どもの乳幼児健診についてお話ししています。健診は成長と発達のチェックを中心に問診・診察を行い、病気の早期発見の他、栄養状態や予防接種などについても指導を行います。成長と発達はよく似た言葉ですが、厳密には、成長とは体重や身長などが増加するように計測して表すことができるもので、発達は生理的・機能的な成熟を示し、精神・運動機能の発達などを示すものです。

 新生児期の健診では、出生直後の小児が母体外の環境に適応して生きていけるかどうかの判断が中心になります。分娩の影響や成熟度、呼吸、循環、哺乳、黄疸、奇形などをチェックします。重症の仮死や大きな奇形などは出生直後に明らかですが、内臓奇形など隠れた異常も1ヵ月ころまでに明らかになるものが多いものです。従って、1ヵ月健診では体重増加を中心に哺乳力や母乳分泌、睡眠の状況、生活リズムの変化など、発育が良好なことを確認し母親の育児能力を確認することが中心になります。

 生後3~4ヵ月は首が坐り、あやすと笑うなど精神・運動発達が著しい時期です。とくに首の坐りは発達を見てゆく上でのポイントになる現象です。人の発達は頭部から尾部に、中枢から抹消に一定方向で発達していきます。その最初の首の坐りで、4ヵ月で首が坐らなければ脳性麻痺や知的発育遅滞などの異常を疑います。あやせばそれに反応して声をあげて笑うとか、機嫌の良い時にはひとりでアーアー、ウーウーなどの声を出すようになります。声のするほうへ顔を向ける、動くものを目で追うなどの動きが出てきます。この時期の栄養状態も離乳食を始めるについて大切な時期です。体重は生下時体重の約2倍になっています。母乳・ミルクの不足や離乳食の準備が出来ていなければ、指導の対象になります。太りすぎが問題になることがあまりありませんが、授乳がだらだら飲みになっている時には指導が必要です。生活リズムもまとまった夜間睡眠が確立する時期です。

2003年12月16日掲載

 子どもが大人と違う点は、子どもには成長発達現象が見られることです。小児科が内科と違うところは、病気の診断・治療にあたって成長・発達を見ているところにあります。乳幼児健診の目的は子どもの病気を早期に発見することだけではなく、成長発達が順調であるかをチェックして、さらにその結果を踏まえて育児支援することにあります。最近は、子どもの数が減少するとともに、乳幼児死亡率の減少、病気の軽症化などが見られる反面、日常よく見られる些細な症状や状態について気軽に答えてくれる人が周囲に少なくなっています。育児情報誌やインターネットではなかなか適切な答えが得られない場合が多く、また情報量が多すぎてその取捨選択に迷うことがあります。このような社会環境の中で、小児科医による乳幼児健診は母親の育児不安を取り除く上でとても大切なものです。

 乳幼児健診のひとつの柱は身体計測です。身長、体重、胸囲、頭囲を計測して体格、栄養状態を判断します。これによって正しく栄養が補われているか、また適切な養育が行われているかが判断できます。異常なやせや肥満にはなにか疾患が隠れている場合や、適切な養育が行われていない可能性も考えなけばなりません。正しい食事習慣や生活リズムが出来ていない場合には、適切な指導とともにその後の経過を観察していくことが必要となります。

 健診のもうひとつの柱は発達についてのチェックです。発達は生理的機能や運動能力の成熟度を示すことばで、脳・神経の成熟と関係し、精神・運動機能の発達としてとらえることができます。成長は計測値で示すことができますが、発達は数量化することが難しく、詳しい問診に時間をかける必要があります。

 子どもの健診で見られる発達には新生児、乳児、幼児など月齢や年齢によって発達段階が違い、それぞれの時期によって個人差の幅が異なるためこれを考慮し、経験をつんだ小児科医が十分な時間をかけて行う必要があります。

2003年12月9日掲載

 今月は貧血についてお話ししています。かなり程度の強い貧血でも徐々に進む場合には症状が現れにくいことが知られています。これに加えて貯蔵鉄や血清鉄の欠乏がある場合でも貧血の症状は現れにくいものです。しかし貧血による酸素不足の状態がなくても、鉄は細胞組織で大切な役割を演じているため、組織鉄が不足した状態では、様々な症状が出るとされます。鉄は組織のエネルギー産生にとって必要なので、不足した状態では活動性の低下や倦怠感、消化器症状として食欲低下や異食症、精神症状として情緒不安定や怒り易すさ、知的発達についても言葉の遅れなどが見られることが知られています。

 新生児期の体内の鉄は、妊娠後期の3ヵ月に胎盤を通して母体から移行すると言われます。この時期に移行する鉄の量は生後3~4ヵ月間の赤血球を作るのに十分な鉄量であるとされます。移行する鉄量はからだの大きさに比例し、早産児や低出生体重児では移行する鉄量が少なく、乳児期早期に不足することになります。からだが大きくなる時や激しい運動をする時に、また重い感染症にかかると体内で鉄の必要量は増加します。これに見合った鉄が食物から供給されなければ、体内の鉄不足が現れます。母乳やミルクだけで育つ乳児期早期には、母体から移行した鉄を利用しているのでさほど鉄不足の心配はありません。しかし生後4ヵ月ころからは、この鉄は使い果たして、この時に正しい離乳食が進まなければ、貧血や鉄欠乏症と言われる状態に陥ってしまいます。さらに体重が少なく生まれた子どもや予定日より早く生まれた子は母体からの移行鉄量が少なく、また生まれてから重い感染症にかかった子は鉄の需要量の増加により体内の鉄は不足しやすい状態になり、成長・発達に影響を及ぼすことになります。

 不足しやすい鉄を補うのに食事に勝るものはありません。母乳の鉄含有量は少ないけれど吸収率は最も良い食品であるとされます。母親の鉄不足は乳児の鉄欠乏症に続きます。鉄の多い食品十分に摂取すれば乳児の貧血予防にも役に立ちます。妊娠中だけでなく授乳中の食事にも十分、注意したいものです。

2003年11月25日掲載

 今月は子どもによく見られる貧血についてお話ししています。子どもに最も多い貧血は赤血球を作る素材が不足して起こる栄養性貧血です。中でも鉄不足による鉄欠乏性貧血が最も問題になります。

 ヘモグロビンは鉄を含む色素ヘムと蛋白グロビンが結合したもので、体内の鉄量が減少すると、ヘモグロビンの産生が低下して貧血になります。成人の体内の鉄量は3~4gであるとされますが、その量はからだの大きさに比例します。従って、急速に身体が大きくなる乳児期や思春期には鉄の需要量が増加します。体内の鉄量は3分の2が血液中のヘモグロビンに含まれ、約30%は貯蔵鉄で肝臓や脾臓に貯えられています。残りのわずかの鉄が血清鉄や全身組織に分布します。

 赤血球の寿命はおよそ120日です。古くなった赤血球は壊され、そのヘモグロビンの鉄はヘモジデリンとして貯蔵鉄になります。新しく赤血球が作られる時には、まずこの貯蔵鉄が利用されます。貯蔵鉄が枯渇すれば次には組織鉄が使用されます。組織鉄は全身細胞のエネルギー産生など重要な役割を担っているので、組織鉄が不足すると活動性の低下や倦怠感、食欲低下、情緒不安定、言葉の遅れ、異常行動などが見られると言われます。

 体内の鉄量は毎日、吸収と排出によってバランスがとられています。人では1日に1mgの鉄が排出されていますから、毎日1mgの鉄を食物として摂取する必要があります。食物に含まれる鉄量は様々ですが、食品によって鉄の吸収率は異なります。一般に植物性の食品に含まれる鉄の吸収は悪く、肉類やレバーなど内臓に含まれる鉄の吸収は良いとされます。身体が大きくなる時期には鉄の必要量が増加します。母乳に含まれる鉄量はわずかですが、その吸収率は最も優れています。これに対して牛乳の鉄は含まれる量も少なく吸収率も悪く、人工栄養児で早期に牛乳に変更することは鉄欠乏の危険性を増します。母乳栄養の母親は自分の食事にも注意を払って、乳児に十分の鉄を摂取させる必要があります。

2003年11月18日掲載

 貧血はよく見られる病気ですが、ゆっくり現れた場合にはなかなか症状が現れません。出血などによって起こった急激な貧血では症状は明らかですが、栄養不足などによって徐々に出現した貧血では、かなりひどくなって初めて症状が明らかになります。貧血の中には重大な原因が隠れている場合もあります。今月は、注意をしていなければ見落とす可能性がある貧血についてお話しします。

 血液の大事な役割のひとつは酸素を全身の組織に供給することです。赤血球の中にある血色素ヘモグロビンが酸素と結合して身体組織に運搬され、そこでガス交換して組織に酸素を供給します。したがって赤血球数やヘモグロビン量が減少すれば、身体各組織への酸素供給量が減少して頭痛、めまい、疲れやすい、息切れ、立ちくらみなどの症状が現れます。酸素不足を補うために心臓は拍動を速くし心拍出量を増加させます。このため動悸や微熱が見られ、ひどい貧血では心不全になります。

 ヘモグロビンは鉄を含む色素ヘムと蛋白グロビンが結合したものです。性別や年齢によって正常基準は異なりますが、乳幼児ではヘモグロビン値が11g/dlを下回れば異常とされます。血液検査で貧血が見つかった場合にはヘモグロビン以外に赤血球数、フェリチン、血清鉄などの検査を行います。白血球や血小板の所見も他の疾患を鑑別するためには大切なものです。

 貧血は原因によって次の4つの場合があります。

1.赤血球を作る骨髄に異常があって赤血球が作られない。
  再生不良性貧血や癌の転移などの場合。

2.赤血球を作る素材の欠乏による栄養性貧血。
  鉄や葉酸、ビタミンB12などの不足が原因。

3.赤血球の寿命が短く壊れやすい。
  溶血性貧血。

4.赤血球の喪失が原因の貧血で、外傷や鼻出血、消化管、尿路など
  体外への失血と腹腔内や頭蓋内など体内への出血に分けられます。

これらの中で子どもに多いのは栄養不足による鉄欠乏性貧血です。とくに成長にともなって鉄の需要量は増加しますから注意が必要です。

2003年11月11日掲載

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