徳島県医師会 トップページへ

  • 文字サイズ標準
  • 文字サイズ拡大
文字サイズ変更について
県民の皆さまへ

 今月は予防接種を県内どこでも受けることが出来る広域化という制度についてお話ししてきました。前回までに予防接種は生後3ヵ月を過ぎれば出来るだけ早期に始めること、そのスケジュール上から個別接種が望ましいことについてお話ししました。今回は子どもの体質や病歴によっても個別接種が大切であることについてお話しします。

 小児科医が子どもの予防接種を行う時に最も注意を払うのはアレルギー体質やけいれん体質や神経疾患がある場合だと思われます。アトピー性皮膚炎や食物アレルギーなどのアレルギー体質があって食事療法を受けている患者さんの場合に、その予防接種でアレルギー反応を引き起こさないかどうかについては大変に気になるところです。またけいれん発作を有する患者さんや中枢神経系に疾患を持つ子どもの予防接種についても大変に注意に要するものです。けいれん発作の後どのくらい日にちが経てば接種できるのか、予防接種後に発熱が見られた時にどのように対処するのか、脳性まひや発達遅滞など神経疾患の子どもに副作用が出た場合に元の神経症状との関係はどうか、また予防接種を行うかどうかについてなど主治医の判断が重要であるのは当然です。

 私たち小児科医は多くの患者さんを毎日診察していますが同じ地域の子どもたちばかりではありません。そして市町村が異なればいつも診ている子どもでも定期予防接種を行うことは出来ません。アレルギーや神経疾患ばかりではありません。日常のありふれた疾患であっても患者さんの中には強い不安を抱えている人がいます。主治医に予防接種をしてもらいたいと希望する人もいます。地域外であると余分な労力や費用がかかります。予防接種が県内全域どこでも自由に受けられるシステムを作って、徳島県に住む子どもたちがみんな平等に、そして患者さんも医者も安心して予防接種が出来るようにしたいものです。

2003年10月28日掲載

 定期予防接種にはポリオ、BCG、三種混合(百日咳・ジフテリア・破傷風)、麻疹、風疹、日本脳炎ワクチンがあります。この中で1歳までに行うことが望ましいものはポリオ、BCG、三種混合ワクチンです。麻疹は1歳過ぎのなるべく早い時期に接種します。麻疹ワクチン接種までにBCGとポリオを2回、三種混合を3回接種する必要があります。  これらのワクチンは生後3ヵ月を過ぎれば接種することが出来ますが、ポリオとBCGは生ワクチンですから接種間隔は4週間必要です。三種混合をした後は1週間で他のワクチンを行うことが出来ますが、約1ヵ月毎に3回行わなければなりません。

 これらの予防接種は、母親からの移行抗体があってあまり風邪などの感染症にかかることのない乳児期の前半までに済ませることが望まれます。

 しかし予防接種が集団接種で行われている地域や個別接種の形をとっていても接種時期が限定されているような地域では、子どもの月齢に合わせて予防接種を進める訳にはいきません。集団接種では、地域によって接種時期が毎年ほぼ一定のスケジュールで行われています。その時期に合わせて待っているうちに、最もワクチンに適した時期を逃したり、その病気にかかってしまったり、他の病気のために限られた期間内に接種出来なくなることもあります。このような不都合は予防接種を集団で行っている限り解消されません。ワクチンは個別接種で行うことが望まれる訳ですが、財政的に無理があるとか、その地域に専門の小児科医がいないなどの理由で個別化が進まないこともあります。

 そこで最近、全国的に近隣の市町村と予防接種の相互乗り入れ制度を取り入れる地域が増えてきています。新潟、大分から始まったこの制度は現在、全国的に広がりを見せ中四国でも、高知や岡山では全県的な相互乗り入れ制度が出来ています。徳島県でも予防接種の相互乗り入れ制度の必要性が認識されてきたところです。積極的に運動を進めていきたいと思います。

2003年10月21日掲載

 最近は予防接種の対象となる病気をあまり見かけなくなったために、その病気の怖さを知らない人が増えているように思います。我々、医療に携わる者の中にも麻疹や百日咳を見たことがない者が増えているのではないでしょうか。しかし麻疹でも百日咳でも一度ワクチンをしなくなったり、接種率が極端に下がると大流行することは今までの経験からも明らかです。病気が少なくなるとどうしてもワクチンの大切さやありがたさを忘れてしまいます。また元の病気の怖さを知らなければ、ワクチンは副作用ばかりが強調されて、ワクチンは悪いもの怖いものと言う印象が強くなります。ワクチンの副作用を限りなく少なくして、恐ろしい病気の流行から子どもたちを守るためにはワクチンに対する正しい知識を持ち、家族が安心してワクチンを受けることが出来る環境を整える必要があります。

 現行の予防接種法では、予防接種の副作用を限りなく少なくするために、予防接種を個別接種で行うことがその主旨としてうたわれています。これは国の法律で定められたことであり、日本の子どもたちはすべて平等に個別接種できるものでなければなりません。しかし予防接種の実施主体が市町村であり、各自治体の都合によってそのやり方には大きな差があります。これは平成6年に現在の予防接種法が施行された時に、原則として個別接種で行うが、法律施行時に準備の整わない市町村では準備が整うまで従来通り集団接種で行うことが認められたからです。市町村の中には、その地区に予防接種を任すことの出来る専門の小児科医がいないところもあって、すべての市町村で同時に個別接種を開始することが出来なかったのです。

 しかしこの10年の間に医療を取りまく環境は随分変わりました。子どもの救急医療と同じく、普段の健康をもっともよく把握しているかかりつけの小児科医で予防接種を受けたいと考える両親が増えているのです。近年、全国的にもこのような予防接種を近隣の市町村で受けることが出来る相互乗り入れ制度を作っている所が増えています。徳島県でもこのような制度を確立して、居住地以外の市町村でもワクチンが受けられるようにしたいものです。

2003年10月15日掲載

 百日咳は新生児や乳児がかかると大変に怖い病気です。それは母親からの免疫が期待できず新生児でもかかる可能性があること、かかると激しい咳ばかりでなく無呼吸やけいれんなどによって中枢神経系に重い後遺症を来たす場合があるためです。さらに激しい咳などの典型的な百日咳の症状が明らかになってからでは抗生剤による治療効果が期待できません。つまり百日咳はかかってから治療する病気ではなく、出来るだけ早い時期にワクチンで予防することが大切な病気です。

 日本の予防接種法では生後3ヵ月になれば三種混合ワクチンとして百日咳ワクチンを接種することが可能とされています。しかし実際にはポリオやBCGなど他のワクチンのスケジュールの関係で、百日咳ワクチンが早期に実施出来ていない場合が多く見られます。平成6年に現行の予防接種法が施行されるまで百日咳を含む三種混合ワクチンは集団接種で2歳以降に行われていました。これでは百日咳にかかって最も困る乳児期早期の予防が出来ていなかった訳です。現在の予防接種法になって、3ヵ月を過ぎればワクチンが出来るようになって乳児の百日咳患者は減少しています。しかし市町村によってはまだ、集団接種であったり個別接種でも時期が遅かったり、すべての子どもが同じように早期の百日咳ワクチン接種の機会を与えられている訳ではありません。

 現行の予防接種法の趣旨は個別接種です。ワクチンの個別接種というのは、子どもの体調に合わせていつでも、都合のいい時に接種できるということです。そして、子どもの体質や今までにかかった病気などを最もよく知っているかかりつけの医者が行うことが理想とされます。現在の法律が出来た時には、規模の小さな市町村や財政的な準備が出来ていない所では、集団接種でもかまわないとされましたが、実施から10年の間にそれぞれの市町村は個別接種に向けて努力がなされてきたでしょうか。もし1つの市町村で個別接種が出来なければ近隣の市町村で接種できる体制を整えるべきでしょう。さらに徳島県内全域で同じようにワクチンが接種できるシステムを作ることが急がれています。

2003年9月23日掲載

 百日咳は激しい咳を特徴とする乳幼児の病気です。百日咳の典型的な症状はレプリーゼと呼ばれる特有の激しい咳です。年長児や成人が百日咳にかかった時には長引く咳で治療に困難をともなうことはありますが重症化することはありません。しかし、2~3ヵ月未満の乳児がかかると、肺炎、中耳炎、けいれん、脳症などを合併することがあり、死亡することさえあると言われます。

 百日咳は患者の気道分泌物に含まれる百日咳菌が飛沫し鼻咽頭、気管、気管支、細気管支などの呼吸器系に感染することで発病します。百日咳は感染してから約7日~10日間の潜伏期間をおいて発病します。最初の症状は鼻水やくしゃみ、涙などの鼻かぜ症状で、カタル期と呼ばれます。咳は軽度で熱は出ても微熱です。この時期にもっとも感染力が強い とされます。この時期が1~2週間続き、次いで痙咳期(けいがいき)に移ります。咳で飛沫した百日咳菌は気道粘膜で増殖しそこで種々の毒素を産生し、これが百日咳特有の激しい咳を起こさせます。「コンコンコン」という乾いた短い咳が連続して激しく出た後に一気に息を吸い込む時に「ヒュー」という音が聞こえます。このような咳が発作的に繰り返す状態をレプリーゼと言います。連続して咳が出る間は息を吸い込む間もありません。このような咳発作はわずかな音、光、体の動き、哺乳などで誘発されます。顔面のむくみや紅潮、頚静脈の怒張、点状出血などが見られます。咳発作は夜間や食事中に多くなるので不眠、嘔吐、栄養不良となり入院加療が必要となることがあります。また典型的なレプリーゼを認めず無呼吸やチアノーゼが症状の中心になることもあります。

 痙咳期は2~3週間持続して回復期に向かいます。咳発作の回数が徐々に減少して快方に向かいます。回復期は1~2週間で終わりますが、その後も冷たい空気や運動時に咳が出やすい状態が残ります。百日咳にかかると回復までに1ヵ月以上が必要となります。

 百日咳の治療には抗生剤を使用しますが、薬が有効なのは潜伏期からカタル期までで、痙咳期になると抗生剤の効果は望めません。予防には百日咳ワクチンが最も重要で、出来るだけ早期のワクチン接種が望まれます。

2003年9月17日掲載

© TOKUSHIMA MEDICAL ASSOCIATION.