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ひうら小児科 日浦 恭一

 タバコが健康に悪いということは多くの人が知っています。しかしほとんどの人は漠然とした知識で何となくからだに悪いと思っているのではないでしょうか。今月はタバコの煙が子どもの健康におよぼす影響について考えてみました。

 タバコの煙には様々な有害物質が含まれています。代表的なものがニコチン、タール、一酸化炭素の3つです。タバコの煙に含まれる物質は4,000種類にも上り、発がん性物質を含む有害物質は200種類以上あると言われます。

 タバコの煙に含まれる物質は直径1ミクロン以下の小さな粒子かガス状の物質で、室内ではすぐ見えなくなります。閉め切った部屋ではすぐに部屋全体に広がり、長時間に渡って室内の空気中に浮遊し続けます。

 最近の建物は気密性にすぐれていますから意識的に換気しなければ、目に見えなくなったタバコの煙はいつまでも室内に留まることになります。

 タバコの煙は主流煙呼出煙副流煙の3つに分けられます。主流煙はタバコを吸った本人が口から吸い込む煙で、煙に含まれる有害物質の濃度が最も高いものです。

 呼出煙はタバコを吸った人の口からはき出される空気に含まれる煙です。副流煙はタバコの先端から立ち上る煙です。呼出煙と副流煙を合わせて環境タバコ煙と言います。環境タバコ煙は自分で望まない人でも吸い込みますから受動喫煙とか間接喫煙と言われます。

 タバコの煙に含まれる有害物質は主流煙よりも副流煙に多く含まれます。ニコチンは2.8倍、タール3.4倍、一酸化炭素4.7倍多く含まれると言われます。

 タバコの喫煙率は昔に比べると低くなっていますが、男性に比べると女性の喫煙率はあまり低下していません。子どもにとって母親の喫煙は影響が大きいものです。大切な子どもの健康を守るために女性が禁煙することはとても大切なことです。

徳島新聞2009年2月掲載

 予防接種の実施方法には集団接種個別接種があります。以前はすべて集団接種で行われていましたが、最近は一部の予防接種を除いて個別接種が原則となっています。

 個別接種は子どもの健康状態や家族の都合に合わせて接種日時を決めることができます。また予防接種を受ける場所がかかりつけの病院であれば、子どもの健康状態やアレルギーなどの体質、これまでにかかった病気について多くの情報を持っていますから安心して予防接種を受けることができます。

 集団接種では日時が決められていますから家族の都合や、子どもの健康状態が悪くてその日時に受けることができないこともあります。集団接種では初めての医師と患者の関係になりますから、個別接種以上にていねいな問診や診察、接種後の観察が求められます。

 最近ではほとんどの予防接種が個別接種になってきました。しかし個別接種の最大の問題点は接種率の低さです。2歳未満に行われる定期予防接種ではほぼ期待通りの接種率を達成していますが、年齢が大きくなるにつれて接種率は低くなっています。

 最近では麻疹・風疹ワクチン(MRワクチン)の2期(就学前)、3期(中学1年)、4期(高校3年)の接種率が極端に低く全国的に大問題になっています。

 MRワクチンの2回接種を全員に行うことは2012年までに日本から麻疹を排除する計画に基づくものです。そのためにはワクチンの接種率を95%以上にする必要があるのです。平成20年9月末の数字では徳島県のMRワクチン接種率は3期が全国45位、4期が41位と低迷しています。

 予防接種の個別化は個人の健康を重視する点では理想的なシステムですが、個人個人が予防接種の意義を十分理解していなければ社会全体の疾患を排除するという大きな目標を達成することはできません。

 ある疾患を社会から排除するためには集団接種も有効であり、集団接種によって短期間に確実に接種率を上げることも考慮する必要があります。

2009年1月28日掲載

 予防接種の中には生ワクチン不活化ワクチンの2種類があります。それぞれのワクチンは作り方が違いますから、その効果や副作用などの特徴も異なります。したがって使用に当たってはそれぞれの特徴をよく理解した上で使用することが大切です。

 生ワクチンは弱毒化された細菌やウィルスの少量を生きたまま予防接種として使用します。麻疹、風疹、ポリオ、BCG、水痘、おたふくかぜワクチンなどが生ワクチンの代表です。

 生ワクチンは細菌やウィルスが体内に侵入して発病した後、回復する上で免疫を獲得することを利用したものです。したがって生ワクチンによる免疫の獲得は自然感染に近く、獲得した免疫は強力で、普通1回の接種で免疫は長く持続します。

 生ワクチンに使用される微生物の毒性は弱められていますが、時に発病することがあります。その時に発熱や発疹など元疾患の症状が現れるのです。これが生ワクチンの副反応です。したがって生ワクチンの副作用が見られるまでには自然感染と同じように潜伏期間があります。接種直後に副反応が見られる場合には別の原因が考えられます。

 これに対して、細菌が作る毒素(トキシン)を無毒化したものやウィルスの表面抗原を利用して予防接種を作るのがトキソイドとか不活化ワクチンと言われるものです。不活化ワクチンには百日咳、ジフテリア、破傷風、日本脳炎、インフルエンザなどがあります。

 一般に不活化ワクチンは生ワクチンに比べて免疫を獲得しにくいものです。そこでワクチンの接種回数を多くすることや、一定期間後に追加接種を行う必要があります。

 不活化ワクチンは一般に感染予防の効果は弱いものですが、その感染症にかかった時に発病を予防する効果があります。不活化ワクチンの副作用は接種直後から48時間以内に現れることが多いので、接種直後の観察時間を十分とることが必要です。

2009年1月21日掲載

 私たち人類の歴史は感染症との闘いの歴史であったと言っても過言ではありません。昔は感染症によって多くの生命が失われてきましたが、社会の安定と経済発展のおかげで環境の衛生状態が整備され、栄養状態の改善、抗菌剤や予防接種の発達によって多くの感染症が克服されてきました。

 感染症を克服する手段のひとつが予防接種です。予防接種によって多くの子どもたちの生命が救われてきました。日本のように衛生的で栄養状態の良い地域に暮らしていると、健康がどうやって守られているのかを忘れてしまうことがあります。今月は私たちの健康を守ってくれている大切な予防接種の基本について考えてみました。

 初めて予防接種が実用化されたのは種痘です。約200年前にジェンナーによって天然痘に対する予防接種である種痘が実用化されました。その後、種痘は短い期間で世界中に普及して、20世紀後半には天然痘の撲滅宣言が出されました。

 このように種痘は効果の点では大変すぐれた予防接種でしたが、大変重篤な副作用を持っていました。種痘の副作用によって生命を落とした人や、現在もその後遺症に苦しんでいる人たちが居ます。予防接種による副作用の問題は避けて通れないものなのです。

 予防接種の副作用については個々の予防接種によってその現れ方が異なります。副作用を恐れる余り効果の少ない予防接種を行ったのでは本来の疾病予防という目的を達成することができません。重篤な副反応のある予防接種はいくら効果が大きくても健康な子どもたちに接種することはできません。

 納得できる範囲内の副作用で効果の大きい予防接種が理想的な予防接種です。現在使用されている予防接種の中には副作用のために使用できないようなものはありません。予防接種の意義を理解して、積極的に予防接種を行うことで子どもたちの健康を守りたいものです。

2009年1月14日掲載

 RSウィルス感染症にかかると大変重い呼吸症状があらわれることがあります。とくに新生児や乳児期早期にもRSウィルスにはかかることが知られていますから注意が必要です。

 RSウィルスは1歳までにほぼ半数の乳児がかかり、2歳までにほとんど100%の幼児がかかると言われます。しかしRSウィルスにかかるのは1回だけではありません。反復感染することが知られています。

 RSウィルスは新生児や乳児期前半にも感染することから、母体免疫はRSウィルスの感染から子どもを守ることはできないと考えられます。またこのウィルスは一度かかっても免疫ができにくく何回もかかることが知られています。しかし再感染をくり返すごとに、症状はだんだん軽くなります。つまり年長児や大人はこのウィルスにかかっても普通のかぜ症状で終わってしまいます。

 つまり初めてRSウィルスにかかった時の症状がもっとも重いのです。とくに新生児期や乳児期早期にかかると重症になり、生命に危険が及ぶこともあります。また早産の未熟児や先天性心疾患、慢性肺疾患などの基礎疾患を持つ子どもがRS感染症にかかると重篤な呼吸障害が起こって生命に危険が及ぶことがあります。

 RS感染症にかかった乳幼児がすべて重症化するわけではありませんが、感染症にかかるとウィルスを排出して、新たな感染源になります。反復してRSにかかった子どもの症状は軽いのですが、他の子どもに対する感染源になる可能性があります。

 多くの入院施設で子どもづれの面会を断る理由のひとつに、軽いかぜ症状の子どもでもRS感染症の場合があるからです。とくに新生児や未熟児、基礎疾患があって入院中の子どもたちの面会には十分な注意が必要なのです。

2008年12月24日掲載

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