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県民の皆さまへ

 先週お話ししたとおりインフルエンザウイルスの表面には2種類の突起があります。それは赤血球疑集素HAとノイラミニダーゼNAで、この突起はウイルスの表面に多数あります。HAはウイルスが気道細胞に感染するとき、細胞表面に接着するのに重要な働きをします。NAは感染したウイルスが体内で増殖し、気道の細胞内から飛び出すときに細胞とウイルスを切り離すのに必要な物質です。

 HAがなければウイルスは細胞内に侵入することができません。NAが働かなければ気道の細胞で増殖したインフルエンザウイルスは体の外に飛び出すことはできません。

 私たちはインフルエンザウイルスのHAに対するワクチンで免疫を獲得し、NAを阻害する物質でインフルエンザの治療を行っているのです。

 現在使用しているインフルエンザワクチンはHAに対する阻止抗体を作るものです。インフルエンザウイルスをふ化鶏卵に接種して増殖させ、これを精製してウイルスを取り出します。このウイルスを不活化して分解しHA成分を抽出してワクチンを製造します。これが現在使用されているインフルエンザHAワクチンと呼ばれるものです。

 このワクチンは比較的副作用の少ないワクチンですが、精製するときにタマゴの成分が極微量残ります。したがってタマゴに強いアレルギー反応を起こす人には摂取することができません。

 ウイルスは毎年少しずつ変異をしていますから、流行ウイルスの種類や型によってワクチンを変えていく必要があります。ワクチンにはAソ連型、A香港型、B型の3種類のHA抗原が含まれますが、ウイルスは毎年少しずつ変異しますから、同じワクチンを続けて使っていると効果は低くなります。したがって世界中の流行ウイルスの型を見極めてHA抗原の内容も変更されているのです。

 インフルエンザウイルスが大きな変異を遂げると新しいワクチンの開発が必要になります。開発には少なくとも6ヵ月から1年かかるとされます。

 現在流行しているウイルスに対して使用中のワクチンは副作用も少なく有効性も確認されており、できるだけ大勢の人が接種して免疫をつけておくことが大切です。

2006年1月17日掲載

 この時期になると毎年決まってインフルエンザが流行します。インフルエンザは高熱をともないさまざまな合併症を持つことから幼い子どもたちにとって大変重要な病気です。

 インフルエンザの主な症状は高熱やのどの痛みをともなう咽頭(いんとう)炎によるものですが、その症状や程度は流行する年によって少しずつ異なります。高熱による熱性けいれんが多く見られる年もあれば、嘔吐(おうと)や下痢が多く見られる年もあります。昨年流行したB型インフルエンザの中には比較的低い熱で終わるものも見られました。

 同じインフルエンザであっても少しずつ症状が違うのはインフルエンザウイルスが毎年少しずつ変異しているからです。

 最近数年のインフルエンザはAソ連型、A香港型、B型が混合して流行しています。これらのウイルスも毎年まったく同じウイルスが流行しているわけではありません。毎年少しずつ変異しているのです。このような小さな変異は毎年起こっています。

 最近、話題の高病原性トリインフルエンザのように今まで見られなかった新しい型のウイルスの出現は数十年ごとに起こっています。20世紀には3回、大きな変異が起こりました。1981年のスペインかぜ、1957年のアジアかぜ、1968年の香港かぜがそれです。そろそろ大きな変化による新しいウイルスが出現すると言われています。その新しいウイルスの候補としてトリインフルエンザが考えられているのです。

 A型インフルエンザウイルスの表面には2種類の突起があります。赤血球凝集素HAとノイラミニダーゼNAです。HAはウイルスが体内に侵入するとき、NAは体内で増殖したウイルスが気道の細胞から飛び出すときに大切な働きをしています。自然界にはHAが15種類、NAが9種類存在していて人や鳥に広く分布しています。この組み合わせによってウイルスの型が決定します。A香港型はH3N2、Aソ連型はH1N1の組み合わせです。

 ウイルスの大きな変異は、HAとNAの組み合わせが変化することによって起こります。高病原性トリインフルエンザはH5NAの組み合わせで従来の人インフルエンザにはなかったもので、これが人に流行する力を獲得すれば大変なことになります。

2006年1月10日掲載

 育児不安には毎日3回の食事をうまく作れない、あかちゃんが食べてくれない、無理やり食べさせると吐く、言うことをきかない、周りに相談する人がいない、心配事を育児書で調べるが、自分の子どもにあてはまるような記載がない、などがあります。

 このような育児不安をかかえる人が増えていると言われます。母親がひとりで悩んだあげく虐待につながるような行動に走ることもあり、社会的な問題になっています。

 育児不安の要因には大家族が少なくなって核家族化が進行したこと、都市化したため地域社会での連帯感が薄くなってきたことなどから、母親が家庭内や社会的に孤立していることが指摘されています。父親は仕事が忙しくて不在がちであり、子育てについての協力が得られにくいこと、近所に同じくらいの年齢の子どもを持つ話し相手や頼りになる相談相手がいないこと、夜泣きがひどい子どもや食事を十分に食べてくれない子であったり、病気がちの子であったり、いわゆる育てにくい子どもの場合などに、孤立した母親は不安になり次第に育児が重荷になります。

 最近の母親世代では兄弟が少なく、年齢の離れた家族、とくに小さな子どもと接触する機会が少なくなっています。自分が出産するまであかちゃんを抱いた経験がない人もあります。

 さらに育児は食事・排泄(はいせつ)・入浴・睡眠といった毎日、同じことのくり返しです。社会に出て仕事をしていたときの生活と比べるとまったく単調な生活になります。しかもあかちゃんは自分の思った通りにはなってくれません。出産後に手助けしてくれていた母親や姑(しゅうと)さんがいなくなると、なんでも自分ひとりで解決していかなければなりません。

 育児不安をかかえた母親に育てられたあかちゃんも毎日の生活を十分に満足して送っているとは考えられません。養育者である母親の育児不安を解消することが、あかちゃんの生理的・情緒的安定を得るのに最適なことであると言えます。

 そこで母親をサポートするシステムが必要とされるのです。ひとりで問題を抱え込まずになんでも相談できる人や施設が求められるのです。妊娠中から育児の基本となる発達や生理的な機能について専門的な知識を持つ小児科医と連携を取っておくのもひとつの手だてです。

2005年12月27日掲載

 育児には乳幼児の生命を保持し、危険から守り、子どもを健やかに育て、社会に適応するために必要な生活習慣をつけるという意味があります。

 母乳や離乳食を与えること、着替えやオムツ替え、入浴をさせ、寝かしつけることなどの行為が育児です。子どもと毎日かかわり合いながら、このような育児行動がくり返されます。これが子どもにとって生活習慣を身につけることになります。

 また、子どもが養育者の生活様式を模倣することによっても生活習慣を獲得していきます。

 食事、排泄(はいせつ)、運動、学習、仕事、休息、睡眠などの毎日くり返して行われる行為を、意識して努力することなく、自然な行為として行うことができることが生活習慣です。その中には、うがいや手洗いなど衛生上の必要な行為から、あいさつなどの社会的マナーを身につけて、社会生活に適応する上で必要な行動まで含まれます。

 このような育児行動を毎日続けるには、養育者が子どもに対して愛情を持っていなければ行うことはできません。養育者の愛情につつまれて行われる育児に対して、子どもは無理なく生活習慣を確立することができるのです。育児に求められるのは、子どもの生理的な欲求を満たすことだけでなく、情緒的な欲求をも満たすことです。

 毎日の育児を通して得られた子どもの信頼は、その後の育児を通して行われるしつけの時にも生かされるものです。両親の愛情につつまれて行われた育児によって、心地よい経験を積み重ねることが望ましい生活習慣を形成するのに役立ちます。

 最近、増加傾向にある成人のがん・心臓病・脳血管障害・高血圧・糖尿病などの疾患が、食事や運動などの生活習慣と密接に関係していることは明らかです。このような疾患群に対して生活習慣病の疾患概念が導入されました。乳幼児期に身についた食事や運動、睡眠などの生活習慣が多くの疾患を引き起こしているのです。

 子どもが養育者の生活習慣を模倣することで獲得する生活習慣もあります。養育者は子どもの模範となるような生活習慣を身につけることが大切です。

2005年12月20日掲載

 育児不安が増えていると言われます。仕事を持っている女性が増加して子育ても一人で行うには大変ですが、育児不安は専業主婦のほうに多いとさえ言われます。今月は育児の基本について考えてみました。

 時代や社会が変わっても、子どもの発達の仕方や望ましい育児のあり方が大きく変わるわけではありません。子どもの心身が健やかに発達するためには、その養育者である両親が、子どもとはどのようなものか、どのように発達するものか、どのようにかかわったらいいのかなど子育ての基本になる原則を理解しておく必要があります。

 乳幼児は適切な育児をされることで一人前の人間に育って適切な社会生活を送ることができるようになります。生まれたすぐのあかちゃんは欲求のかたまりです。おなかがすけば母親がいくら疲れていようが、また周りの人がいくら迷惑しようが、泣き続けて自分の欲求を満たそうとします。人間の形はしていても理性を持った本来の人間ではないと言えます。子どもが最初から優しさや思いやりの心を持って生まれてくるのであれば、教育もしつけも必要はないのです。そこで子どもの育てかたやしつけが大切になるのです。

 しかしよく理解しておくべきことは、子どもが単なる欲求のかたまりではなく、すばらしい発達の可能性を持っているということです。どの子も意欲的な子どもや、心の優しい子ども、たくましい子どもに育つ可能性を持っているのです。

 このような可能性を引き出すには、子どもを育てる環境が大切です。とくに養育者の心の環境が大切です。親が子どもをどのように扱い育てるかによって子どもは意欲的にも、無気力にもなります。またやさしい子にも意地悪な子にもなります。親が子どもをどのようにしつけたいと思っているかということよりも、普段の両親がどのように生活し、どのように他人と接触しているかということのほうが、子どもには大きな影響を及ぼすと考えられます。子どもは両親の背中を見て育つと言われるゆえんです。

2005年12月13日掲載

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