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 髄膜炎の中で臨床的に大きな意味を持つのは細菌性髄膜炎です。細菌性髄膜炎は非常に重篤な疾患であるため、診断の遅れや治療の不適切、また治療に対する反応が悪い場合などには生命にかかわることがあります。また治っても神経学的な後遺症を残すことがありますから注意が必要です。

 細菌性髄膜炎の原因菌は年齢によって異なります。新生児では大腸菌やB群溶血性連鎖球菌(溶連菌)が原因になることが多く、乳幼児から年長児ではインフルエンザ菌や肺炎球菌によるものが多くなります。

 新生児の髄膜炎は分娩時の産道感染によるものが多いのが特徴です。とくにB群溶連菌によるものは生命の危険性が高く、妊娠中に細菌検査を行い、母体へ抗生剤を投与することによって新生児の重篤な感染症を予防することが大切です。

 乳幼児や年長児に多く見られるインフルエンザ菌や肺炎球菌による髄膜炎に対してもっとも大切なことは確実に原因菌を特定してその原因菌に対するもっとも有効な抗生剤を選択することです。これらの細菌の中には多くの抗生剤に対して耐性を持つものがあります。

 インフルエンザ菌や肺炎球菌は気管支炎、肺炎、中耳炎や副鼻腔炎など呼吸器系の感染症の代表的な原因菌です。これらの細菌が抗生剤に対する耐性を獲得するのは、多くのかぜに不必要な抗生剤が日常的に使用されているからです。抗生剤の乱用が髄膜炎に対する治療を著しく困難なものにしているです。

 細菌性髄膜炎にはさまざまな合併症や後遺症を認めることがあります。髄膜炎の初期には脱水症や電解質の異常をともなう内分泌異常、敗血症による出血傾向、脳圧高進による呼吸循環器症状などが見られます。髄膜炎の後遺症としては水頭症や硬膜下水腫など脳外科的な治療を必要とするものや運動麻痺、知的障害、てんかん、難聴などが見られることがあります。

 細菌性髄膜炎に対しては早期発見、早期治療が重要ですが、髄膜炎の原因菌にできるだけ原因菌にできるだけ抗生剤の耐性を作らないためには、普段から不必要な抗生剤の投与を控えることが大切です。

2006年4月25日掲載

 髄膜炎の中でもっとも多いのはウイルス性髄膜炎です。ウイルス性髄膜炎は多くが自然に治る疾患ですが、ときに集団内で流行がみられることがあり注意が必要です。

 髄膜炎の代表的な症状には発熱、頭痛、嘔吐があります。さらにけいれんや意識障害が見られることもあります。ただこれらの症状は一般のかぜ症候群でもよく見られる症状なので、症状だけで髄膜炎の判断を行うことはできません。

 診察上では大泉門の膨隆や首の後ろが硬くなることが髄膜炎の所見ですが、なんとなく元気がないとか無関心であるとの症状から髄膜炎を疑うことがあります。髄膜炎の確定診断のためには髄液検査を行う必要があります。

 クモ膜腔は元々無菌状態ですから、ここに針を刺して髄液を採取することは簡単に行う検査ではありません。しかし髄膜炎を疑った場合には絶対にしなくてはならない検査です。

 正常髄液は無職透明で細胞成分は見られません。採取した髄液が白血球で濁っている場合に髄膜炎と判断します。さらに髄液中に細菌が検出されれば細菌性髄膜炎と判断されます。細菌が検出されなければほとんどはウイルス性髄膜炎です。

 ウイルス性髄膜炎の原因ではエンテロウイルスがもっとも多く、ウイルス性髄膜炎の80%を占めると言われます。エンテロウイルスにはポリオウイルス、エコーウイルス、コクサッキーAウイルス、コクサッキーBウイルス、その他のエンテロウイルスがあります。ポリオを除くこれらのウイルスは毎年夏に流行して、夏かぜ症候群と総称されます。この中にはヘルパンギーナや手足口病が含まれます。

 エンテロウイルス以外で多い原因ウイルスにはおたふくかぜがあります。ウイルス性髄膜炎の中に占める割合は5%くらいとされますが、おたふくかぜにかかって髄膜炎になる頻度は比較的高いとされます。

 ウイルス性髄膜炎は一般に治りやすいもので、普通1週間から10日くらいの経過で治るとされます。ただしけいれんや意識障害をともなうものには脳炎・脳症が合併していることがあり注意が必要です。

2006年4月18日掲載

 子どもの感染症の中でとくに大切なものは神経系の感染症です。中でも髄膜炎は生命の危険性や神経学的後遺症の点で大変重要な疾患です。今月は髄膜炎について考えてみました。

 子どもの神経系感染症の中には髄膜炎、脳炎、脳症などがあります。この中でもっとも頻度が高いのは髄膜炎です。髄膜炎はその原因によってウイルス性、細菌性、結核性に分類されます。結核性髄膜炎は細菌性髄膜炎のひとつですが、その特殊性から一般の細菌性髄膜炎とは別に扱われるのが普通です。

 脳は外側から硬膜、クモ膜、軟膜という3枚の膜に包まれて保護されています。クモ膜と軟膜の間にあるクモ膜腔には脳脊髄液(髄液)が流れています。

 髄液中には白血球などの貪食(どんしょく)細胞が含まれておらず、低タンパクであり補体や免疫グロブリンという免疫に関与する物質が乏しく、細菌が侵入してもこれを排除することが難しいと言われます。また血液と脳の間には自由に物質が通り抜けることができない血液脳関門があって、血液中にあるウイルスや細菌に対する免疫抗体が通過できなくなっています。したがって一度髄液の中に細菌などの微生物が侵入して髄膜炎になると治りにくくなるのです。

 クモ膜腔へ微生物が侵入すると経路にはいくつかあります。まず血液を介して感染するものとして、肺炎や尿路感染症などの病巣から細菌が血液に侵入して血液中の細菌が神経に感染するものがあります。

 また神経系に近いところに感染病巣があって直接浸潤するものには中耳炎や副鼻腔炎、顔面の化膿性病変などが原因になることがあります。

 さらに頭部の開放性骨折などの髄液が漏れるような外傷があると直接神経系に感染が起こることがあります。

 髄膜炎は脳表面の炎症性病変ですから、脳実質がおかされるわけではありません。しかし髄膜炎でも意識障害やけいれんなどが見られることがありますから、髄膜炎と脳炎・脳症とを鑑別することが治療上や後遺症の有無を考慮するときに重要なポイントになります。

2006年4月11日掲載

 今月は麻疹(ましん)風疹(ふうしん)を中心に予防接種の変更についてお話ししてきました。麻疹風疹混合ワクチン(MRワクチン)を使用することで2回接種が容易になります。しかし完全に2回接種になるのはまだしばらく先になります。

 これまで麻疹は1歳を過ぎればできるだけ早く、遅くとも1歳3カ月までに接種を完了するように指導してきました。しかし実際には生後90カ月までの接種が認められていました。これが今年4月1日以後は生後12カ月から生後24カ月未満の接種になり、接種期間は1年間に短縮されます。

 MRワクチン導入のもっとも大きい意味は2回接種です。しかし実際に2回接種が始まるのは今年4月以降にMRワクチンを使って免疫をつけた子どもが5歳になる4年後です。就学前の5歳から7歳までに2回目の接種が始まる予定です。

 しかしすでに麻疹、風疹の単独ワクチンを接種した子どもたちにはMRワクチンを使用して2回目の接種予定はありません。また麻疹や風疹にかかって片方のワクチンのみ接種した人も接種の対象ではありません。厚生労働省は2回接種の必要性は認めるものの、単独ワクチン接種者や麻疹にかかった子どもにMRワクチンを接種することの安全性が確立されていないと言います。

 今後、単独ワクチン接種者に対する治験が修了すれば、今までに麻疹ワクチンを受けた子どもたちにもMRワクチンの2回接種が可能になると思われます。 麻疹ワクチンを1回だけ接種してその後麻疹に接種することがなければ免疫はなくなります。したがってワクチンで免疫を獲得した世代が増加している現在、麻疹の免疫を待たない成人が増加していると考えられます。社会全体としての麻疹に対する免疫は低下しており、もし麻疹の流行があれば大勢の成人麻疹が発生する恐れがあります。

 成人の麻疹を発生させないためには麻疹を根絶する必要があります。そのためには早期に子ども全員のMRワクチン2回接種を実施することが望まれます。

2006年3月28日掲載

 今月は先週に引きつづいて予防接種法の変更についてお話ししています。

 今年の4月から麻疹(ましん)風疹(ふうしん)ワクチンが混合ワクチンになって1回の接種でよくなります。これは麻疹ワクチンを2回接種にするための措置です。

 麻疹ワクチンの有効率は95%以上あるとされますが、1回接種では免疫ができない人が数%あります。また麻疹ワクチンで免疫を獲得した人でも、その効果は時間経過とともに低下して、数年後には発病を阻止するだけの効果が見られなくなります。

 このような免疫を持たない人、すなわち麻疹ウイルスに感受性のある人の割合が増えてきますと、麻疹が流行する条件が整います。このような地域に麻疹患者が一人でも発生しますと、麻疹に免疫のない人は次々に麻疹にかかってしまいます。

 最近は麻疹ワクチンで免疫を獲得して麻疹にかからずに大人になった人が増えてきています。したがって一度麻疹が流行すると麻疹にかかる大人が増えてくることが予想されます。事実、一部の地域では大学生の間で麻疹の流行が見られています。

 これまでは子どもの病気であった麻疹が大人の間にも流行する可能性が出てきました。これを予防するためには子どもの予防接種を徹底することによって、麻疹を世の中から根絶する必要があります。麻疹を根絶するためには予防接種を1回だけにして接種率をいくら高くしても免疫獲得率を100%にすることはできません。

 麻疹ワクチンの接種回数を2回にすることで、1回目の接種で免疫ができなかった人に2回目の接種で免疫を獲得させること、また1回接種で獲得した免疫が低下しないように2回目の接種をすることで免疫を強化することが大切なのです。

 今回の改正では、麻疹ワクチン2回接種の実施は少し先になります。今年4月以降、麻疹風疹混合ワクチンを接種した子どもたちが小学校に入学する前年に2回目の接種が行われるようになります。

 現在のところ厚生労働省は、単独の麻疹ワクチンで免疫をつけた人の2回接種を認めていません。できるだけ早くすべての子どもに2回接種の機会を与えることが大切です。

2006年3月21日掲載

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