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前回まで、私達の身体の中に24時間の周期で変化する生体リズム、サーカディアンリズムがあること、そして神経系、内分泌系、呼吸・循環器系などのリズムが同調して環境に適応していることを述べてきました。環境と人のリズムが解離していると、体内の身体機能は不調を来たすようになります。例えば海外旅行における時差は、多くの人に不快な症状を経験させますし、身近なところでは社会全体が夜型になって、夜間に仕事をする人が増えることで、夜勤による体調の変化を経験する人も増えています。我慢の出来ない眠気やどうしようもない倦怠感などは、楽しい旅行の日程を台無しにしたり、大切な仕事の上で重大なミスを招いたりすることにつながりかねません。
毎日の生活の中で夜更かしの生活が日常的になると、環境リズムと人の睡眠リズムの間にリズムの解離、つまり時差が生じることになります。その症状としては朝、起きられなくなる、起きても眠気が強く倦怠感があり、注意力が散漫になり集中力が低下する、仕事や勉強に対する意欲が低下する。また食欲や消化吸収力が低下する等です。これでは学校や社会生活の中で快適な生活を送ることは出来ません。不登校の子どもたちの睡眠覚醒リズムを調べると昼夜の逆転が見られることも知られています。人の睡眠覚醒リズムは外の環境から様々な刺激を受けて時間の手掛かりを得ています。この時間の手掛かりのことを同調因子と言います。光や音などの物理的な刺激は同調因子の代表ですが、人の場合には社会生活の時間が強力な同調因子となります。明暗の変化がなくても社会とのつながりあがあれば生体リズムは維持されるのです。睡眠リズムの維持確立には光が大切です。夜遅くまでテレビなどの光刺激を受けていると、睡眠リズムは確立されません。さらに社会と隔絶された生活を送っていると段々生活リズムは社会のリズムと無関係なリズムを刻むようになり、昼夜の逆転などが起こりやすくなるのです。
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前回にもお話しましたが、人が毎日ほぼ同じ時刻に寝たり起きたり出来るのは、身体の中に生体時計があるためです。約24時間の周期で変動する生体リズムはサーカディアンリズムと呼ばれ、生体時計に支配されています。生体時計は主として睡眠覚醒リズムを支配し、睡眠リズムは他の生理現象である内分泌系、深部体温、呼吸や循環器系などと同調して変動することが知られています。そしてこれらの生理現象は環境のリズムと一定の位相を保って変動しており、このことを同調と言います。人の体温は夕方に最も高くなり、入眠とともに下がり始め、夜明け前に最低になります。夜明け前には代謝活動が最も低くなり呼吸数や心拍数、血圧も低下します。睡眠中には成長ホルモンや抗利尿ホルモンの分泌が増加し、早朝の覚醒前に、コーチゾールやACTHなどの分泌が増加します。身体の代謝活動が最も低下する夜明け前には体温も循環器や呼吸機能が最も低下しますが、体内では内分泌系を中心に覚醒後の活動に必要なホルモンの分泌が始まっています。
このように睡眠覚醒リズムと同調して多くの生理現象が変動しています。生理現象がリズム的な変動をするのは、生体が一定の環境の中で適応するのに有利なためだと考えられます。活動中には呼吸も循環器系もしっかり働き、睡眠中には代謝活動も低下しています。もし睡眠中に血圧や心拍が必要以上に上がればゆっくり休んでいることが出来なくなります。そして睡眠の役割は休息をとることと同時に、次に目覚めたときに必要な物質を貯えておくことだと考えられています。様々な生理現象が睡眠覚醒リズムと同調し、環境リズムと同調することが、環境に適応する第一歩なのです。環境との同調が崩れる時、体内の生体リズム間で同調が崩れた時には身体の機能の不調を来たすことになるわけです。
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冬は日の出が遅いのでなかなか目が醒めないものです。朝7時でもまだうす暗くて起きるのには強い意志が必要です。昔の私たちの生活は日の出と共に始まり、日没と共に休息に入りました。しかし最近の人たちは夜のほうが活動的で、多くの人が夜型の生活を送っています。これは、忙しくなると昼間に出来ないことを夜間の睡眠時間を削って行う人が増えるためです。その結果、子どもにも夜型の生活がまん延しています。夜型の生活は子どもの昼間の生活にも影響を及ぼしました。夜遅くまでテレビやパソコンに向かっていたり、受験勉強のために深夜まで起きていて夜更かしになり、その夜更かしのせいで、朝起きられない、学校に遅れる、学校に行っても眠気が強く授業に身が入らないなど、慢性的に寝不足を訴える子どもが増えていると言われます。
今、私たちは毎日ほぼ同じ時間に寝たり起きたりしますが、睡眠と覚醒が毎日ほぼ同じ時刻に繰り返すためには、身体の中にある生体時計が正確に時刻を刻む必要があります。人の生体時計の周期は約25時間ですが、地球の1日は24時間です。つまり人の生体時計は毎日24時間の地球の周期に時計合わせをしているわけです。この時計合わせがうまくいかないと身体の時間が環境の時間と解離することになり、環境に適応することが難しくなるわけです。人の生体時計の周期が長いわけですから、環境の時間の手掛かりが乏しくなれば、人の生活が夜更かしに傾くということです。ですから例えば長い休暇などで、社会生活の規則がなくなると生活のリズムが乱れて夜更かし、朝寝坊になりやすいというわけです。その乱れを防ぐためには寒くても暗くても眠気を我慢して朝早く起きる習慣を持続することが大切だということがお分かりいただけたでしょうか。
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前回まで麻疹の症状やワクチンの必要性について述べてきました。今回も麻疹の怖さについてもう少しお話したいと思います。
麻疹の中で多いのは呼吸器系の合併症です。とくにウイルスによる直接の肺炎・気管支炎に加えて細菌の2次感染による肺炎には油断ができません。細菌に対する免疫力の低下によって肺炎は重症の肺炎になることが珍しくありません。また、まれに神経系の合併症が起こることがあります。麻疹脳炎は麻疹1,000~2,000例に1例発生すると言われています。けいれんや意識障害などその症状が重篤であり生命を落とすこともあり、助かっても後遺症を残すことがあると言われています。また麻疹の神経合併症のなかには、麻疹にかかって数年後に行動異常や学習障害などの形で発病し、その後、難治性のけいれんや知能の退行などをきたすSSPE亜急性硬化性全脳炎と呼ばれる疾患もあります。SSPEに対する治療はさまざまな試みがなされていますが、未だに有効な治療法がないのが現状です。
昔から生後6ヵ月間は麻疹にはかからないと言われていました。しかし世の中に麻疹が減少したこと、またワクチンで免疫をつけた世代が親になり始めたことで、これから親になる成人の麻疹に対する抗体が減少し、生まれてくる新生児や乳児でも麻疹にかかる可能性が出てくるのです。つまり麻疹が制圧されないで時々流行するような中途半端なワクチンの仕方ではかえって不幸な結果を招くことになるかも知れないのです。
ワクチンが個別接種になってから、接種率が低下しているとの報告を目にすることがあります。ワクチンの種類によって、また地域によってかなりの差があるものと思われます。自分の健康は自分で責任をもつ。そして身体の調子が最も良い時にワクチンを受けることが出来るのが個別接種の考え方なのですが、どうしても忘れてしまったり都合が悪かったりして接種出来ずに放置されているものもあると思われます。また副作用などの不確かな情報に惑わされることがあるのかも知れません。1歳を過ぎたらなるべく早く麻疹ワクチンを、少なくとも1歳半までには必ず済ませるようにしましょう。
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麻疹の怖さについては前回ここに述べました。麻疹ワクチンは昭和53年から定期予防接種に組み込まれて現在に至ります。ワクチン接種によって95%以上の人に抗体が出来ると言われています。ワクチンの普及によって麻疹による多くの犠牲者が救われたことは明らかです。
しかし最近、日本全国で散発的に麻疹が流行していることが報じられています。昨年も高知や大阪で流行がありました。また最近の麻疹流行の特徴は乳幼児だけでなく、一度ワクチンを受けた中学生や高校生の中に麻疹にかかる人が増えていることです。これは現在の日本のように麻疹ワクチン1回接種のみでは麻疹を十分に制圧することは出来ないということを証明しています。
最近の先進国では麻疹ワクチンを2回接種にしている国が多くなっています。これは麻疹の流行がある地域では、ワクチン接種で一度免疫をつけた後に自然界の麻疹に出合うことで免疫が強化され麻疹にかかったのと同じような免疫が期待できますが、自然界に麻疹が減少してワクチンを受けた後にまったく麻疹に出会うことなく何年も経過するとワクチンでつけた免疫は体内から減少して新たに麻疹に出会った時に発病してしまうことがあるのです。世の中に麻疹が減少してきた現在、ワクチンで免疫をつけた人が増加している今後はワクチンの2回接種が必要となるでしょう。
現在、欧米先進国ではすでに麻疹ワクチンの2回接種が行われて、かなりの麻疹を制圧することに成功していますが、日本では麻疹が制圧されたことはとても言えない状態です。アメリカに行った日本人の子供が麻疹を持ち込んで、日本は麻疹まで輸出するのかと国際問題になりかけたことさえあったそうです。
ワクチンで免疫をつけた人たちが成人になるに従って麻疹が成人の病気として流行する恐れがあります。ワクチンの2回接種をすすめることで麻疹の流行を制圧したいものです。