徳島県医師会 トップページへ

  • 文字サイズ標準
  • 文字サイズ拡大
文字サイズ変更について
県民の皆さまへ

徳島県小児科医会 日浦恭一

 低身長について検査や治療を受ける場合にはできるだけ早期に行うことが大切です。これは低身長の原因には成長ホルモン分泌不全などの内分泌疾患だけでなく非内分泌疾患による低身長が多く含まれているからです。

 非内分泌疾患の中には染色体異常などの先天異常や奇形症候群、胎内感染などが含まれています。さらに骨系統疾患やクル病、先天代謝異常、他の慢性疾患などを原因とする低身長が含まれていますから早い時期にこれらを鑑別しておく必要があります。

 低身長の診断時には、家族歴、在胎週数、胎位、分娩様式、新生児マススクリーニングの結果、新生児仮死や低血糖および重症黄疸の有無、精神運動発達、慢性疾患の有無、長期服用薬剤の有無を確認しておきます。

 成長ホルモンの分泌不全による低身長はそれほど多くありません。しかし最も成長ホルモン投与による身長の伸びが期待できる疾患ですから、これが疑われる場合には出来るだけ早期に専門医を受診します。

 成長ホルモンの検査には薬剤を投与して分泌される成長ホルモン量を測定する負荷試験を行います。2種類以上の負荷試験で成長ホルモンの分泌が悪い場合に成長ホルモンの使用が許可されます。成長ホルモンの使用は毎日注射で行うもので、その費用も高額です。患者さん本人はもとより家族の負担も大きなものですから手軽に行う訳にはいきません。

徳島新聞2010年6月23日掲載

徳島県小児科医会 日浦恭一

 身長が低いことは社会的に不利益を被ることがあり、身長の低い子どもを持つ両親の悩みはつきません。

 低身長の原因を探るためには成長曲線を描くことから始めます。しかし成長ホルモン分泌不全のような内分泌疾患の頻度はそれ程高くありません。大部分の低身長は体質性低身長などの原因不明の低身長で、両親の身長が低い場合などの遺伝的な要因によるものが多いものです。

 昔のように栄養状態が悪いと身長の伸びは悪くなります。時代とともに社会が安定し経済的に豊かになり、栄養状態が改善されると毎年、子どもの身長は両親の身長を上回って伸びるようになります。その結果、現在日本人の最終身長はほぼ一定の水準に達しましたから、子どもが両親の身長を大きく上回って伸びる可能性は期待できなくなります。

 成長曲線や両親の身長から最終身長を予測し、この値から大きくかけ離れて低い場合には専門医を受診することが必要でとなります。

 身長は思春期に最も大きく伸びますが、思春期になれば早い時期に身長の伸びは停止します。思春期に入る時期が早ければそれだけ早く身長は停止します。低身長の検査や治療を考える場合には思春期までにできるだけ身長を伸ばしておくことを考慮して早期に行います。

徳島新聞2010年6月16日掲載

徳島県小児科医会 日浦恭一

 身長が低いことは多くの人にとって悩みの種です。ただ身長には個人差がありますから悩みの程度にも差があります。一般に低身長とは同じ年齢で同じ性別の平均身長から標準偏差の2倍以上低い場合と定義されます。この定義に当てはまる低身長は統計的には100人中に1人か2人しか居ません。したがって低身長で悩んでいる人の多くは正常範囲か境界線上で悩んでいる人が多いと言えます。

 子どもの身長が低いことで医療機関に相談する時、最も大切なのは成長の記録です。母子手帳など健診の記録があれば持参しましょう。小児科医は子どもの記録を元に成長曲線を作成します。その子の成長曲線と標準の成長曲線を比較することで、現在の身長が平均値とどのくらい離れているか、いつから離れてきたのかを判断します。身長が標準偏差の2倍以上離れて小さい場合には成長ホルモンや甲状腺ホルモンなどを測定し、検査を進めていく必要があります。

 また成長曲線を描くことで、年間の身長の伸び率を測定することが大切です。身長が標準内にあっても、身長の伸び率が急速に低下している時には、何かこれまでになかった病気が発生している可能性があります。

 低身長で悩む場合には、まず成長記録から成長曲線を作成してみることです。思わぬ病気発見の手がかりになることがあります。

徳島新聞2010年6月9日掲載

徳島県小児科医会 日浦恭一

 世界では多くの国で子宮頸がん予防のためのヒトパピローマウィルスHPVワクチン接種プログラムが作成されています。接種対象は性的接触のない女子ですから、多くの国では10歳から14歳くらいを対象にプログラムを作成しています。また多くの国ではこのプログラムは公費負担で行われています。

 子宮頸がん予防は従来から行われている子宮がん検診と、HPVワクチンの徹底によって完全なものとなります。現在、日本の子宮がん検診の受診率は20%くらいとされます。

 子宮頸がんの予防接種は任意接種ですから現状では日本でワクチンの接種率が急速に上昇することは期待できません。

 世界の多くの国が国民の健康を守るためにワクチンの定期接種化と公費負担制度を実施しています。子宮頸がんの発生は20歳代から30歳代に多く、HPV感染から数年から十数年後にがんの発生を見る訳ですから、日本は早急に予防措置を講じなければ10年後、20年後にもまだHPV感染による子宮頸がんの発生で苦しんでいることになります。

 日本人はワクチンによる副反応に異常に過剰反応して、予防接種行政にとても消極的な態度をとってきました。しかしワクチンで予防できる疾患をそのまま放置することは許されません。ヒブワクチン、肺炎球菌ワクチンとともにHPVワクチンも早期に定期接種化することが望まれます。

徳島新聞2010年5月26日掲載

徳島県小児科医会 日浦恭一

 子宮頸がんはヒトパピローマウィルスHPVの感染が原因で発生します。HPVは性的接触で感染するウィルスですが、感染しても症状は見られません。さらにHPV感染数年後に子宮頸部の基底細胞に異常が発生しても何の症状も現れません。従って性交開始年齢以前の思春期にHPV感染による子宮頸がん発生の危険性について、HPVワクチン接種の大切さや、子宮頸がんの検診の重要性などを教育しておくことが大切です。

 現在世界の110カ国以上でHPVワクチンが使用されています。日本では昨年の12月にワクチンが発売されて使用できるようになりましたが、HPVに対する知識の乏しさやワクチンが高額であることなどの理由からまだ一般に普及するに至りません。

 HPVワクチンの接種対象者は主として10歳以上の女性となっています。ワクチン接種は初回と1ヵ月後、6か月後の3回、筋肉内注射が行われます。

 ワクチンの効果はHPV感染に対する予防的なものであって治療ではありません。HPVに持続感染して子宮頸部の基底細胞に異常が発生したものや、前がん状態になってしまったものに治療効果はありません。

 そこでHPV感染前のワクチン接種が大切であり、子宮頸がん検診が重要になるのです。これらの内容は思春期までに教育しておく必要があります。

徳島新聞2010年5月19日掲載

© TOKUSHIMA MEDICAL ASSOCIATION.